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【本編完結】辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~《コミックス発売!》   作者: 御手々ぽんた
第一章

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安全第一でいこう!!

 リハルザムの取り出した二本目のスクロールに魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣から現れたのは、またしてもキノコだった。

 その見た目は醜悪、の一言に尽きる。

 全身が真っ赤。その笠の部分には無数のぶつぶつが、まるで吹き出物のように点在している。


 そして、でかい。


 ゆうに高さは三メートルはあろうその巨体。

 その巨大キノコの吹き出物から、紫色の煙が噴射される。

 しゅーという音が、こちらまで聞こえてくる。

 どうやら噴射された煙は空気よりも重たいのだろう。直ぐに地面まで落ちてくると、辺りに広がっていく。


 ──あれは煙幕用か? いや、それならあそこまで比重の重い気体は使わないか。とすると?


 その煙の隙間から、リハルザムが見える。片足を引きずるようにして、よたよたと走って遠ざかっていくリハルザムの背中。


「あ、逃げた」「結局何しに来たんだ、あれ」「追います!」とどうやらカリーン達からもリハルザムが逃げていく様子が丸見えのようだ。


「ダメだ! あの煙、毒かも!」と私は煙を突っ切って追いかけようとしたアーリを制止する。


 リハルザムは突然現れ、ろくな用事もなく。そして突然キレて襲いかかってきて逃げるとか、私にも理解しがたい行動だ。しかしそんな相手でもリハルザムもまたマスターランクの錬金術師なのだ。

 今まさに広がっている紫色の煙、もし毒でないとしてもとんでもない作用があるかも知れない。それがこのまま放置しておけば野営地へと入り込む。


「《展開》」私はスクロールを取り出し、発動させる。


「《リミット解放》封印解除《対象》純化のスクロール」


 《純化》はその危険性から、封印のスクロールで能力を一部、封じていたのだ。《研磨》のようにただ制限をかけるだけでは不十分だと判断して。


 その封印を解く。

 真の力の一部を、解き放つ。


「《純化》」


 私は目の前に広がっている紫色の煙を含む空間の気体、全てを対象にスクロールを発動させる。

 目の前の空間の気体が急速に分離されていく。


 純粋な窒素のみで構成された空間に、それぞれ一種類のみで生成された丸い気泡のようなものが形作られる。気体ごとに僅かに異なる屈折率で、うっすらと見える気泡。


 私はそのうちの一つ。純粋な酸素の気泡を巨大キノコへぶつける。

 超高濃度の酸素に包まれる巨大キノコ。


「《展開》《投影》」と三本目のスクロールを発動する。


 投影のスクロールが、私の背後から照りつける太陽光を収束させるようにして光を操作する。

 ちょうど巨大キノコに当たる部分で太陽光が一点に集まるように。


 そんなささやかな火種が、高濃度の酸素下では信じられない事になる。


 一気に炎上する巨大キノコ。

 もだえ苦しむかのように笠を振り回す巨大キノコ。しかし、すぐにキノコの焼けるいい臭いが辺りに漂い始める。


 私は慎重に毒らしき紫色の煙をひとまとめにすると、素材として純化で保護した容器に回収しておく。


 そこまでしてようやく純化のスクロールを解除する。


「ふぅ、それでリハルザムは──」


「まっすぐ」とロアが遠視の魔眼で見たのだろ。教えてくれる。


「カリーン! 念のため、アレ、捕まえに追いかけ──」と私はカリーンに伝えようとした、その時だった。


「ルスト師、来ます!」とアーリの焦ったかのような声がする。


 私はその声に振り返る。

 そして目に飛び込んできた、光景。

 そこには空の彼方から飛んでくる無数の何かの姿があった。


「アーマーサーモンに、翼! 進化によるスタンピード!」と私と同じようにして振り向いたロアが、遠視したものを教えてくれる。

 空を覆い尽くさんとばかりに近づいてくる無数の翼の生えたアーマーサーモンを指差して。



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― 新着の感想 ―
[一言] きのこ胞子空間で粉塵爆発炎上だから普通に燃えるのでは?燃えなかった胞子散らばって厄介なことになりそうだけども。
[気になる点] 純粋な酸素のみじゃ燃焼は起こりませんよ。科学的な理屈づけをしたい作品なのだから助燃性と可燃性の違いくらいでケチつけられたら勿体無いです。気体を分離出来るんだから、可燃性の気体も混ぜない…
[良い点] 楽しく読んでいます [気になる点] フラグ回収ですかね〜? [一言] 更新ご苦労さまです
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