お話しをしよう!!
野営地が見えてきた。
ロアが駆け寄ってくる。
「ルスト師、こっち!」とロアが槍で指し示したのは、私たちが来たのとは反対側。
「アーリはどうする? 気分がすぐれないなら──」私はヒポポから降りながら訊ねる。
「行きます、一緒に。見届けさせて下さい」とアーリ。
私は無言で頷くとロアの案内に従って野営地の中へと駆け込む。
「ルスト師、気をつけて。あいつ、魔の気配がする」と走りながらロアが教えてくれる。
──魔の気配? 透視で何か見えたのか?
私が聞き返そうかと思っていると、ついにリハルザムの姿が見えてくる。
そのリハルザムの目の前に立ちはだかるように、漆黒のフルプレートアーマーを着こんだ姿が野営地の入り口に立ち、こちらに背を向けている。
「カリーン様っ」とアーリの声。
カリーンの両手には、鞘に入ったままの自らの身長ほどもある大剣。その鞘の先は地面にめり込み、まるでリハルザムが野営地へと入るのを防ぐかのようにしていた。
「ルスト、来たか」とどこかほっとした様子のカリーン。
私はアーリの話してくれた事が本当であれば物理特化のカリーンには、マスタークラスの錬金術師の相手は荷が重いだろうと思いながら声をかける。
「お待たせいたしました。かわりますよ。皆さんも」とカリーンだけでなく、ロアとアーリにもそれとなく離れていて貰うように目配せする。
カリーンと入れ替わるようにして、私はリハルザムの目の前へと進み出る。
「おい、ルスト師。ようやく来たか!」と相変わらず耳障りな声。
「……リハルザム師、何か用ですか?」と私は答える。いつものどこか小馬鹿にしたような表情は鳴りを潜め、どこかギラギラとした瞳をしている。その姿は、何故かぼろぼろだ。そして少し臭い。
「ルスト師、聞いて喜べ。錬金術協会は正式に基礎研究課を復活させてやるそうだ。お前も再び、栄光なる錬金術協会で働かせてやるとの、協会長のお言葉だ。嬉しいだろう? 光栄だろう? さあ、さっさと戻って──」と訳のわからない事を言うリハルザム。
「え、無理です」とあまりの訳のわからなさに、思わず思った事をそのまま言ってしまう。
「え?」と何故かポカンとした表情をするリハルザム。
「だいたい私は辞めたくて辞めたので。切っ掛けは確かに基礎研究課が無くなった事ですけど。ここの方が研究、捗りそうなんで。予算も潤沢ですし。用件がそれだけなら帰って下さい」と一応理由も伝えてみる。
私の理由を聞いて下を向くとぷるぷると震え出すリハルザム。
なんだこいつと思って見ていると、突然リハルザムが大声で笑いだす。
「ぐふっ。ぐふぁふぁふぁふぁあ! あー、はっはっ」
気でも触れたかとその様子を警戒しながら見ていると、ようやくその気持ち悪い笑い声が、やむ。
「あー。それじゃあ、仕方ない。あー仕方ないよね。そう、これは仕方ないのさ。ルスト、ぶっ潰すっ! 《展開》」
押さえていた狂乱がまるで溢れだしたかのように、リハルザムの顔が醜く歪む。リハルザムがスクロールを展開させてくる。
「皆、もっと距離を! 《展開》」私は皆に声をかけ、アーリの警告もあって準備しておいたスクロールを展開させた。
何故ここまでリハルザムが豹変したのかは理解出来なかったが、その疑問はいったんおしころす。
「リハルザム! マスターランク同士の殺しあいは禁じられているぞっ! よくて錬金術師の資格は剥奪される。わかってやっているのかっ!」と私は最後にリハルザムに怒鳴る。
「ぐおっ、はぁ! 目撃者が、一人でも、生きてたらなぁ!」とスクロールから引き抜いた左手に巨大なキノコ群の錬成獣を寄生させ、リハルザムが襲いかかってきた。




