SS 神とリボン《第四世界》
「チッタさん。今のが大託宣、だったのですね」
私はタウラを腕のなかにおさめたままのチッタへと尋ねる。
「さようです。タウラ猊下がその身に主神ローズを御降ろしになられておりました。先ほどのタウラ猊下の口からでた御言葉は、すべて主神ローズのもの」
「そんなこと出来るなんて……」
隣にいるヒルダちゃんが、チッタの説明に驚きの表情を浮かべている。私はタウラから発していた輝くばかりの神気が見えていたので、チッタの説明に納得できた。しかし、そんなものが見えないヒルダちゃんが驚くのも当然だ。
「主神ローズの言葉ですが、わからないところばかりだったのですが……」
「うーっ……。レニアスタ嬢の疑問、いくつかは私から、お答えしよう」「猊下、まだ起き上がれてはっ」
そこでタウラが目をさます。とめるチッタを手で制して、立ち上がるタウラ。チッタが寄り添うようにその身を支える。
「何からお知りになりたい?」
「えっと、ではアレイスラというのは何ですか?」
なぜか私の質問に笑みを浮かべるタウラ。
「さすがあの方の子。質問も的確だな」
そう呟くタウラに私は首をかしげる。
「アレイスラ、だな。かの名をもつものは、神の一柱とされている。ただ、教会でもその名を知るものは、ごく僅か。それも、かの神についてはいくつか別の名が知られているだけなのだ。消えし神。三面の神。──そして、訪れし邪神」
「訪れし邪神、ですか。いったい、どこから訪れるのですか」
「それも、素晴らしい質問だ。レニアスタ嬢は神と人の違いは何だと思う?」
「──わかりません。ただ、先ほどのタウラ猊下は、その存在の奥行きが、とても深くなっているように見えました」
私は先ほどの様子を思い起こしながら、自分の目に写ったものを言葉にする。
「そなたのその目は本当に素晴らしい。これは私が神をこの身におろした感覚の話で恐縮だが、神は過去と今、そして未来に同時存在するもの、と私は考えている」
そういった腕を水平になるように持ち上げるタウラ。
「世界を川のようなものと考えてみてほしい。時の流れを川の流れとして。私たちや他の生命は、その流れに浮かぶ一つの点なのだ」
どうやら広げて伸ばした腕を川だと思ってほしいらしい。チッタがタウラの後ろから手を伸ばしてくる。チッタの人差し指の指先が、タウラの腕の肩側から手の方に向かってゆっくりと動いていく。
──チッタさんの指が、人ってことかな。肩側が過去で手の方が未来?
「そして、神は川の流れの上流から下流へと浮かぶ、紐のようなものなのだ」
タウラの説明が続く。その後ろにいるチッタが少し困った様子だ。紐になるものがないらしい。
そこでハッと、何かに気がついた様子を見せるチッタ。ごそごそと懐をあさって取り出したのは、古ぼけた小さな人形だ。
とても大切にしているのがわかる丁寧な手つきで、人形につけられたリボンを外すチッタ。そして両手でリボンの両端をもってタウラの腕の上でゆっくりと腕にそって動かしていく。
チッタの顔が少し嬉しそうだ。
──良かったね、チッタさん。あのリボンが神ってことね。
「そして、世界は一つではない」
そういって反対の腕と平行になるように腕を動かすタウラ。大きく前ならえの姿勢だ。
「この、私たちがいるのとは別の世界、そこから邪神が侵略を試みてくる」
そのタウラのセリフに合わせて、チッタがリボンの片端を隣り合う腕に移動させようとする。
「リボンの長さが、世界を隔てる幅より長くないといけないのですね?」
私はタウラの腕から腕へとかけられたリボンを見ながら告げる。
「そうだ。それが神の格、のようだな。世界をまたいでくる神は、それだけ強大だ。そしてかつてこの世界へと侵入を果たした邪神アレイスラは、主神ローズの鋭き棘をもつ蔓により、その大部分を滅せられた」
「大部分……」
「そう、大部分だ。未来には、アレイスラの残滓たる存在が、潜んでいる。リボンの切れ端のように。その一つが、今この時なのだ」
私はそのタウラの言葉にひそむ戦いの気配に、ぎゅっと槍を握りしめる。
しかし、それだけだ。タウラの今の説明には、不思議と疑問はわかない。
生まれた時から見続けてきた、この世界。そこに、私は違和感を覚え続けていたのだと、今更ながらに得心したほどだ。
そしてタウラの説明が終わったその後ろでは、チッタが古ぼけた人形に、優しげな手つきでリボンを結び直していた。
本日はコミカライズ第19話の更新日です!
コミカライズは、ルストとリハルザムの最初の戦いに決着ですね。ぐんたお様の描く、キノコスムージーのシーンのリハルザムの表情が、秀逸すぎます。
また、別に短編も投稿しました!
「レアモンスター?それ、ただの害虫ですよ~知らぬ間にダンジョン化した自宅で普通に暮らしてました。日常生活を配信したらバズったんですが」
よければこちらもご覧いただけましたら幸いです!
https://book1.adouzi.eu.org/n7025id/




