SS 大託宣の儀《第四世界》
「レニアスタ嬢はこちらへ」
チッタに案内されたのは大聖堂のさらに奥。半地下になった空間だった。
階段をおりて、まず目に入ってきたのは教会のイメージとはあまりそぐわない、布を多用した装飾。幾重にも重なるように配置された、色とりどりの布が部屋中に配置されている。
その布の隙間に見え隠れするのは、バラの蔓を模したと思われる、石の彫刻。はっきりとはわからないが、部屋中を這うように彫刻が施されているようだ。
その壁から放たれる薄明かりに照らされた室内はどこか幻想的で、厳粛というよりも、不思議な懐かしさを感じた。
そしてその部屋の中央、特に薄暗い場所に、タウラが膝をつき一心に祈りを捧げている。
「あっ」
部屋に、ヒルダちゃんもいた。思わず私がもらした声にヒルダちゃんがこちらを向く。
私を見て安堵したような表情を見せ、しかし私の表情をみて、すぐに気落ちしたように曇るその瞳。
私は思わず速足でヒルダちゃんの方へと近づくとそのまま両手でぎゅっとヒルダちゃんを抱き締める。
「レニーちゃん、無事で良かった。ご両親はやっぱり?」
「うん、居なかったの。手がかりもさっぱり。ごめんね。教会の『慈愛の蔓』さん達が調べてくれてるみたいだけど、普通の手段で王都から出たとかじゃ、ないみたいなの」
「そうなの……ご両親のこと、心配ね。謝らないでレニーちゃん。そうだ、ロアさんは? お知らせしないとだし、何か助けに……」
私とヒルダちゃんが小声で話しているところに、一度離れていたチッタが、音もなく現れる。
「フォース元帥は、急遽出征されたそうです。王城よりさきほど戻った『蔓』の者から報告がありました」
「あ、チッタさん。そうですか……ありがとうございます。ロアに、伝えようとしてくださったのですね」
「はい。レニアスタ嬢に武の心得があるのはお見受けしたのですが、やはり御身はお若いので」
「いえ、わかります。私はこの槍にて、すでに証を立てはいますが、チッタさんのその判断は当然だと」
私たちのやり取りを不思議そうに見つめるヒルダちゃん。
「ねぇ、レニーちゃん。それはどういうこと?」
「私の母方の部族だとね、武技で免許皆伝をもらうと一応、成人扱いになるの。チッタさんはそこに配慮してくれたのよ」
私がヒルダちゃんの質問に答えていると、チッタがさっと手をあげる。
「さて、レニアスタ嬢、ヒルダ嬢、そろそろのようです」
私とヒルダはそれにあわせてぴたりと口を閉じる。
「大託宣の儀が始まります」
チッタのその言葉が合図だったかのように、四人のシスターが周囲を囲む布の影から現れる。
そのシスターたちはそれぞれ手に何かを抱えていた。
一人の手には、腕の長さほどもありそうな、金属のトゲ抜き。
一人の手には、漆黒の布。
一人の手には、硝子のフラスコ。
一人の手には、真っ赤な槍。
──あれはすべて魔導具? 魔素の流れが見える。
私が不思議に思っている間に、タウラ猊下を囲むように立つ四人のシスター達。次の瞬間、シスター達が踊るように動き出す。
それは、このために修練を積んだ動きであることが一目でわかる、素晴らしいものだった。
──何か、物語を表しているのかな?
私とヒルダちゃんが不思議そうに見つめているのを察したのか、チッタが小声で教えてくれる。
「これは、創世を讃えるものです」
バラバラに舞っていたシスター達が一度集まる。手にした魔導具から溢れた魔素が複雑に絡み合い、タウラへと集まっていく。次の瞬間、さっと壁際の布の裏へと消えていくシスターたち。
「さあ、いよいよですよ」
チッタのどこか敬虔な声。
その声につられるようにして、私は正面を向きなおる。そこには、神々しいばかりの神気をまとったタウラの姿があった。
立ち上がり、スッと地面を滑るようにこちらへと近づいてくるタウラ。チッタがさっと膝をつくと、タウラに向かって祈りの姿勢をとる。まるで神に直接対面したかのような敬虔なしぐさだ。
私とヒルダちゃんは顔を見合わせるも、そのまま立って待つことにする。それでも、ヒルダちゃんが私の手をぎゅっと握ってくるので、優しく握り返しておく。
私たちの目の前でとまったタウラ。溢れんばかりの神気が、私の目には眩しすぎてうまく直視できないほどだ。
タウラの姿をしたものが話しかけてくる。
『愛し子よ』『宿命の子よ』『いとけき子よ』
それは、タウラの声。しかし、明らかに違う存在が声を出しているのが伝わってくる。そしてその声はどうやら私とヒルダちゃん、さらにチッタへと呼び掛けてきているようだ。
『三人に、謝らなくてはいけません』
慈愛に満ちた表情で、なぜか謝罪から語り始めるそれ。
『悠久の時の果てへと伸びる使命を、果たしきれませんでした』『時の流れに潜むアレイスラの残滓』『私の蔓をもってして捉えきれないそれが、時を遡り、今に至ります』
そっと私の手をとるタウラの姿をしたもの。
『愛し子よ』『宿命の子といとけき子を連れてください』『一人になってはダメ』『向かうは西方、その血の由来を訪ねて──』
そこで、私の手を握っていたタウラの手の力が、ふっと抜ける。
さっと立ち上がったチッタが、倒れ込むタウラを抱き抱えるように受け止める。
「ご無理をなさって……。主神を長く御身に留め過ぎです。時を跨ぐ存在が、いかほどご負担か自身が一番お分かりでしょうに」
チッタが心配そうにタウラへ向かって呟く。
そのチッタの腕ですやすやと眠るタウラからはすっかり神の気配が消えていた。




