表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~《コミックス発売!》   作者: 御手々ぽんた
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

451/462

SS 枢機卿猊下《第四世界》

「どうしよう、どうしよう……。パパ……。パパ……」


 馬車のなかに響く、ヒルダちゃんの声。

 馬車の床にうつ伏せに倒れこんだままの自分の父親にすがりつき、うわ言のように繰り返している。


「ヒポタ、馬車の護衛をお願いっ!」


 私はヒポタにそう告げると、急ぎヒルダちゃんたちの馬車へと乗り込む。さほど広くない馬車のなかは、それだけでいっぱいだ。


「ヒルダちゃん! しっかりして」

「パパ、パパ……」

「ヒルダちゃん! ごめんね」


 パシッ。

 肩を掴んで強引にこちらを向かせると、その頬を軽く叩く。


「あっ……レニー、ちゃん?」


 ヒルダちゃんの焦点が、ようやく私をとらえる。その瞳を見つめて、ゆっくりと言い聞かせるように話しかける。


「まずは仰向けにするよ。手伝ってね。そっち側をもって」

「……うん。ごめん」


 はっとした様子で私の指示に従うヒルダちゃん。小さく呟かれた謝罪に頷き返す。


 ──呼吸はある。でもこれは……


「ヒルダちゃん。過剰に摂取すると害になる()ポーションじゃ、これは治せない」

「ど、どうしたらいいの? レニーちゃん」

「──ローズ教会なら。あそこなら、治癒の加護持ちのアクターがいたはず。その人ならもしかしたら。いい?」

「うん、うんっ!」


 すがるようにこちらを見ながら首を縦にふるヒルダちゃん。そしてすぐに馬車の外に向かって声をかける。


「馬車を出して、ペンタクルス。王都ローズ教会へ!」

「わかりました! お嬢様がた。何かにお掴まりください!」


 ヒポタとともに周囲の警戒をしてくれていた様子のヒルダちゃんのお付きの女性──ペンタクルスさんはすぐさま御者台に戻ると、手綱を振るう。


 馬車が急発進する。


 ヒポタが、その横をゆうゆうと並走する。

 私は舌を噛まないように歯を食いしばると、ヒルダちゃんとともに彼女のパパの体が跳ね回らないように必死に馬車の床に押さえつけ始めた。


 ◇◆


「着きました!」


 奇跡的に誰もひき殺すことなく王都ローズ教会へと到着した馬車。

 ふらふらのヒルダちゃんを横目に、私は馬車を飛び出すと教会の建物へ向かう。


 礼拝堂へと駆け込む。

 そこはまるで野戦病院のような状態だった。


 そこかしこで横たわる人々。その傷の様子をみるに、どうやら猿ライオンは王都の他の場所にも現れたようだ。


 私のちょうど目の前に、血に染まった包帯を持った妙齢のご婦人が立っていた。急停止すると、その女性を見上げる。

 ひと目みて、かなり高位のアクターだとわかった。私はこれ幸いとばかりに彼女へと声をかける。

 それも、大声で。


「傷病者、一名です! 右腕に呪いと加護の複合的傷病。呼吸はあります!」


 私が意図的に伝えたフレーズに、期待通り反応してくれるそのアクター。

 優しげな顔立ちが、「呪いと加護の」と言う私の言葉でその眼光が一気に鋭くなるのがわかる。


 見下ろしてくるその瞳に気圧されないように私は腹に気合いを入れて、近づいていく。


「外の馬車にいますっ!」

「──わかりました。私が見ましょう。タウラです。お嬢さん、お名前は?」

「レニアスタ=シュトルナ=ハーツニクス」

「レニアスタ嬢」

「はい」


 じっとこちらを見つめてくるタウラに私は視線をそらさないように意識して目を合わす。

 私に何をみたのか、軽く頷くタウラ。


「よいでしょう。チッタ!」

「はい、猊下」


 タウラの背後に控えていた神殿騎士の装いの女性。チッタが、タウラヘと呼びかけたその敬称で、私は気がつく。


 ──猊下ということは、彼女は枢機卿? そうか。この女性が、あの史上最年少の枢機卿──『神の剣』、『御言葉(みことば)を賜りし者』と呼ばれている、タウラ猊下か……


 ここ王都でも、もっとも有名な人物の一人だ。彼女を目の前にして、さすがの私も緊張してしまう。


「アクター・サウザンドをここに」

「はっ。直ちに」


 チッタの返事を背に、大股で外へと向かうタウラ。


 速い。それは明らかに歴戦の戦士の身のこなし。

 私も慌ててその後ろ姿を追いかける。


 私がタウラに追いつけたのは結局、馬車の前だった。タウラがその場にいるヒルダちゃんたちに、何か声をかけている。

 すると、タウラ以外の皆が、なぜか頭を抱えるようにしてしゃがみこむ。


 タウラは手を腰の剣にかけると、ひとこと発する。


「失礼する!」


 私の目をもってしても、それをとらえるのは至難の技だった。

 一瞬の間に、抜剣し縦横無尽に振るわれたタウラの剣閃。

 それが綺麗に馬車の壁と天井だけを解体する。


 まるで計算しつくされているかのようだ。解体された壁も天井も、馬車の内部にチリ一つ落とすことなく、外側へと滑り落ちていく。


 馬車の床に横たわるヒルダちゃんのパパの姿がすっかりあらわになる。


「リハルザム=ストーンヘル!」


 ヒルダちゃんのパパの名前を呼び、一瞬、驚いた顔をするタウラ。しかしすぐさまリハルザムの傍らにしゃがみこむと子細に右腕の患部を調べ始める。


 そのままタウラは何かを取り出す。


「聖典……?」


 ポツリとヒルダちゃんが呟く。私の位置からはよく見えなかったが、どうやらローズ教の聖典らしい。

 目をつぶり、片手に持った聖典に反対の手をかざすしぐさをするタウラ。


 次の瞬間、タウラを中心にして膨大な力を感じさせる加護が、渦巻くよう駆け巡り始めたのが私の目には見えた。


本日はコミカライズ17話の更新日です!

リハルザムの活躍と、ルストの日常業務の回です。ぜひぜひ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ