土壌の魔素抜きをしよう!!
急ぎの仕事がおおかた片付いた私は、ヒポポと一緒に耕作予定地の土壌の魔素抜きに来ていた。
実はこれが、開拓地での錬金術師の本来の仕事だったりする。
高濃度の魔素を含んだ土壌では作物は枯れるかモンスター化してしまう。
そのため、魔素を抜いて空気中に放出してしまう必要があるのだ。
とはいえやることは単純。
ちょうど専用器具を、等間隔に地面に設置しようとしているところだ。
あらかじめ岩を取り除いて、荒く耕された土に、手が入るぐらいの穴を開ける。硬いが、私でもなんとか掘れないこともない。
「ぶもー」とヒポポの声。
「え、かわってくれるの?」とヒポポに聞き返す。
ヒポポは首を縦にふると、私の掘り始めた穴へ近づいてくる。そしてその前足の爪で、器用に穴を掘り出す。
一かき一かきが、大きい。あっという間に掘り終わってしまう。
「おお、すごいな、ヒポポ! じゃあ、印をつけていくから掘るのはお願いできる?」
「ぶもぶもっ」尻尾をふりふり快く引き受けてくれるヒポポ。
そこからは、早かった。私が印をつけるのと大して変わらぬ速度でヒポポが掘るのを済ませてしまうのだ。あっという間に耕作予定地に、等間隔の穴があく。
私は持って来ていたリュックサックから魔素抜き用の器具を取り出す。
「よし、あとはこれを設置して。そしたら休憩しよう」
取り出した器具の見た目は、球根だ。球根の上部から、四方に金属のパイプが生えている。
その球根をあけてある穴に次々に投下していく。
「よし、入れ漏れはないよな」
「ぶも」と首を左右に振って一緒に確認してくれるヒポポ。
私は球根制御用のスクロールを取り出すと、展開させる。連動して一気に起動する球根達。
「《展開》《開始》魔素転換」
くるくると広がったスクロールの上に、魔法陣が現れる。それに呼応するように、地面に埋めた球根の上にも、魔法陣が現れる。
魔法陣がゆっくりと回転を始める。
その回転に合わせて、魔素が揺らめくようにしてパイプから空気中に放出されていく。
「よし、順調順調! あとは魔素を抜き過ぎないように気を付けるだけだ」とお手伝いしてくれたヒポポの背中をポンポンと叩いて労う。
することもないので、座り込んだヒポポの背中で休憩としゃれこむことにする。
「今日は日差しが強いな」
照りつける太陽が昼寝には少し暑い。私は展開させたままのスクロールを移動して日除けがわりにする。
時間潰しに先達の論文でも読むかと、転写のスクロールを取り出す。それ専用に一本、錬成したスクロールだ。
「えっと、ああ、あった。これこれ。分かりやすいように色づけしといてよかった」と呟きながら。
その青色のスクロールには、退職する前に一通り基礎研究課で保管していた論文を転写しておいたのだ。きっとリハルザム達は捨ててしまうだろうと思って。
私は目当ての論文を見つけるとのんびりと目を通し始める。それは土壌の魔素濃度とそこで生育された麦の比較研究に関する物だった。
結論としては、魔素がある程度残っている土地で出来た食べ物の方が人間には美味しく感じられるようだ。ただ、味は変わらないらしい。魔素の摂取を脳が美味しさとして錯覚するのではないかと論文では推察されていた。
興味深く読んでいると、ヒポポが
身動きする。
「ぶもも?」
「おっ、そろそろかな。ありがとう!」私は論文のスクロールをしまうと、ひょいとヒポポから飛び降りる。
ペンデュラムを取り出すと、球根を一つ取り除き、魔素を測る。
「さすがヒポポ。完璧なタイミング」私はそう呟くと、球根を制御しているスクロールを停止させ、魔素抜きを終了させる。
そのまま球根を回収していると、野営地の方から走ってくる人影が見える。アーリだ。
「ルスト師! ルスト師に人が訪ねて来ています。少し、まずい相手かもしれません」とアーリ。
「まずい相手? 名前は名乗った?」と私はアーリに訊ねる。
「はい、リハルザムと」そう告げたアーリの顔は不安に曇っていた。




