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【本編完結】辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~《コミックス発売!》   作者: 御手々ぽんた
第六章

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SS 《第四世界》

「ぱぱぁー」


 ドンと、暖かい体が足にまとわりついてくる。

 抱っこの要求だ。


「レニー」


 私は娘の両脇のしたに手を差し込むと、ゆっくりと持ち上げる。

 一度腕を伸ばしきって、娘の体を高く持ち上げる。


 キャッキャという、本当に楽しそうな笑い声。


 そのまま抱き締めるように、優しく抱っこする。細く滑らかな髪からする、お日様のにおい。

 少しだけ私より高い体温が伝わってきて、温かい。


 ──熱は、ないな。大丈夫。


 生まれもった力と才のせいで、体調を崩しがちだったレニー。赤子の頃から、本当に良く熱を出していた。

 それもあって、抱っこをするとほぼ無意識に熱が無いか確かめてしまうのが、すっかり習い性になっていた。


「ままが、ごはんーて」

「呼びにきてくれたのか。ありがとう、偉いなー」


 誉められて嬉しかったのだろう。満面の笑みだ。


「ぱぱぁー、これ、なぁに?」

「ああ。今、パパが研究している内容なんだ。ええと、おしごと、だね」


 キラキラとこちらを見つめる瞳。どうやら続きが聞きたいらしい。


「いっかい下ろすよ?」


 その体をそっと下におろす。

 しっかり両足が地面についたのを確認してから、その体に回した腕を解く


「──この二つ、良く見てご覧」


 私は机の上にあった二つの魔石を手に取ると、娘の目線の高さまで下げる。


「きれい──ねえ、ぱぱぁ。どうして同じなのに、ちがうの?」


 魔石をじっと見つめたあとに発せられたのは、不思議そうな娘の声。私は、的を得たその質問に、思わず身動ぎする。


 私の手のなかにあるのは、二つとも同じ種のモンスターの魔石。そして《転写》のスクロールで見る限りは、その組成に違いはないのだ。


 レニーの指摘は、子供特有の勘なのか。はたまた生まれもった力のなせる技か。


「──良く、わかったね、レニー」

「こっち、なんだか空っぽ、みたいー」


 レニーが空っぽだと指差した方だけを手にすると、私は魔素を込めていく。


「わあっ、ぱぱぁのお手々、きれいー」


 魔石に魔素が充填されていく。すぐに魔素は満杯になる。そのまま私は魔石に魔素を込め続ける。

 私が込めた魔素は魔石に入り、そして過剰分の魔素は、どこかへと消えて行ってしまう。

 その様子をワクワクとした表情で見つめるレニー。その瞳には、魔素の流れが見えているのだ。


 錬金術師の瞳。

 レニーの、才のうちの一つ。


「わかるかい?」

「うん」

「じゃあ、次はこっちだ」


 私はもう一つの方の魔石を手に取る。

 同じように魔素を込めていく。


「あっ!」


 レニーの驚いたような声。

 込められた魔素が許容量を越えた瞬間、魔石が崩れるようにバラバラになってしまう。


「こわれたっ! こわれたよっ」

「そう、こわれちゃったね。パパはこれがどうしてか調べてるんだ」


 今こわれた方は、最近倒されたモンスターのもの。そして、もう一つのものはとても古い地層から発掘されたものだった。


「ぱぱも、ふしぎなのー?」

「そう。パパも不思議なんだ」

「ふしぎー! ふしぎー」


 楽しそうにはしゃぐレニー。


 ──空っぽ、か。仮説に過ぎないけど、やはり過剰な魔素は、こことは違うどこか別の世界に流れ込んでいると考えるのが、しっくりくるんだよな。もしも世界が複数存在しうると仮定すると……


「あなた? お食事ですよ」


 レニーを眺めながら考え込んでいるところに届く、とてもとても穏やかな、声。


「はい、すいません!」


 私は思わず背筋を伸ばし、速攻で返事と謝罪を返す。


「ままー」


 とてとてと声の主たる母親へと駆け寄っていくレニー。


 その満面の笑みが、笑みであるうちにと、私はレニーのあとに続いて、急いで食卓へと向かったのだった。

コミカライズ15話②の更新記念SSです!

ぐんたお様の描く、アーリのプク顔がとても可愛いので、是非ご覧ください!

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