SS 《第四世界》
「ぱぱぁー」
ドンと、暖かい体が足にまとわりついてくる。
抱っこの要求だ。
「レニー」
私は娘の両脇のしたに手を差し込むと、ゆっくりと持ち上げる。
一度腕を伸ばしきって、娘の体を高く持ち上げる。
キャッキャという、本当に楽しそうな笑い声。
そのまま抱き締めるように、優しく抱っこする。細く滑らかな髪からする、お日様のにおい。
少しだけ私より高い体温が伝わってきて、温かい。
──熱は、ないな。大丈夫。
生まれもった力と才のせいで、体調を崩しがちだったレニー。赤子の頃から、本当に良く熱を出していた。
それもあって、抱っこをするとほぼ無意識に熱が無いか確かめてしまうのが、すっかり習い性になっていた。
「ままが、ごはんーて」
「呼びにきてくれたのか。ありがとう、偉いなー」
誉められて嬉しかったのだろう。満面の笑みだ。
「ぱぱぁー、これ、なぁに?」
「ああ。今、パパが研究している内容なんだ。ええと、おしごと、だね」
キラキラとこちらを見つめる瞳。どうやら続きが聞きたいらしい。
「いっかい下ろすよ?」
その体をそっと下におろす。
しっかり両足が地面についたのを確認してから、その体に回した腕を解く
「──この二つ、良く見てご覧」
私は机の上にあった二つの魔石を手に取ると、娘の目線の高さまで下げる。
「きれい──ねえ、ぱぱぁ。どうして同じなのに、ちがうの?」
魔石をじっと見つめたあとに発せられたのは、不思議そうな娘の声。私は、的を得たその質問に、思わず身動ぎする。
私の手のなかにあるのは、二つとも同じ種のモンスターの魔石。そして《転写》のスクロールで見る限りは、その組成に違いはないのだ。
レニーの指摘は、子供特有の勘なのか。はたまた生まれもった力のなせる技か。
「──良く、わかったね、レニー」
「こっち、なんだか空っぽ、みたいー」
レニーが空っぽだと指差した方だけを手にすると、私は魔素を込めていく。
「わあっ、ぱぱぁのお手々、きれいー」
魔石に魔素が充填されていく。すぐに魔素は満杯になる。そのまま私は魔石に魔素を込め続ける。
私が込めた魔素は魔石に入り、そして過剰分の魔素は、どこかへと消えて行ってしまう。
その様子をワクワクとした表情で見つめるレニー。その瞳には、魔素の流れが見えているのだ。
錬金術師の瞳。
レニーの、才のうちの一つ。
「わかるかい?」
「うん」
「じゃあ、次はこっちだ」
私はもう一つの方の魔石を手に取る。
同じように魔素を込めていく。
「あっ!」
レニーの驚いたような声。
込められた魔素が許容量を越えた瞬間、魔石が崩れるようにバラバラになってしまう。
「こわれたっ! こわれたよっ」
「そう、こわれちゃったね。パパはこれがどうしてか調べてるんだ」
今こわれた方は、最近倒されたモンスターのもの。そして、もう一つのものはとても古い地層から発掘されたものだった。
「ぱぱも、ふしぎなのー?」
「そう。パパも不思議なんだ」
「ふしぎー! ふしぎー」
楽しそうにはしゃぐレニー。
──空っぽ、か。仮説に過ぎないけど、やはり過剰な魔素は、こことは違うどこか別の世界に流れ込んでいると考えるのが、しっくりくるんだよな。もしも世界が複数存在しうると仮定すると……
「あなた? お食事ですよ」
レニーを眺めながら考え込んでいるところに届く、とてもとても穏やかな、声。
「はい、すいません!」
私は思わず背筋を伸ばし、速攻で返事と謝罪を返す。
「ままー」
とてとてと声の主たる母親へと駆け寄っていくレニー。
その満面の笑みが、笑みであるうちにと、私はレニーのあとに続いて、急いで食卓へと向かったのだった。
コミカライズ15話②の更新記念SSです!
ぐんたお様の描く、アーリのプク顔がとても可愛いので、是非ご覧ください!




