エピローグ 辺境の錬金術師
「ヒポタ。ようやく戻ってきたぞ」
今、私は開拓に向かうという、かつての学友に会いに、王都近郊へと来ていた。
学園を卒業後、フリーの錬金術師として過ごして、はや数年。
錬金術協会の就職を蹴って始めたこの生き方だったが、最初は本当に苦難の連続だった。
辺境地域を巡り、様々な珍しい素材を手にしては、錬成を繰り返していく日々。実績のない私の錬成品は当初はなかなか売れなかった。
しかし地道に続けていくうち、私の錬成品にも、徐々に買い手がつくようになり、今では日銭ぐらいは軽く稼げるようになっていった。
そんななか、舞い込んだ今回の依頼。
「長期の依頼ということだし、気楽な生活もこれでしばらく終わりかなー。……まあ、あいつの頼みだし」
私は学友の顔を思い浮かべながら、カバ型の錬成獣で、相棒のヒポタの上で大きく伸びをする。
「ぶももー」
ヒポタの声に視線を前に向ける。人出が増えてきた。私たちがいるのは、王都へと通じる主街道。この国の大動脈であり、穏やかな陽気とあいまって、様々な人々が行き交っている。
長らく辺境にこもっていた身としては、そんなすれ違う人々から漏れ聞こえる会話も、久しぶりだ。
「いいか、サバサ。トルテーク。この先の採取地では──」
「あっ! そこ、足元お気をつけてっ」「っうお!」
でっぷりとした姿の同業者らしき人物とお供の数名。
よろけた巨体を、あわやというところで支えた、お供の人たち。
「ゾロアー、どうだ! この変装なら完璧……」
「しっ! お声が高いです……」
騎獣にのった、身分の高そうな三人組の女性。
「ドーガの兄貴」「なんだ、デデン。怖じ気づいたのか」「いやとんでもねえっ──」
冒険者たち。
通りすぎていく、そんな人々。
そしてついに王都の入り口が見えてくる。そこには大小様々な錬成獣の駄獣の姿があった。
「おーい!」
真っ赤な髪の小柄な女性がぶんぶんと両手を振っている。そして、声がでかい。
かなり離れたここまで、良く聞こえる。
その両脇には、顔に布をかけ異国風のマントをまとった二つの人影。
私はなぜか、そこで強烈な既視感におそわれる。めまいのような感覚。
──あれ、体が。徹夜して錬成したまま旅を強行しすぎたか……
ふわりとした浮遊感。ヒポタから体が滑り落ちる。
「──もし。もし。旅の御仁、気をたしかに」
目を開けると、私を覗きこむ銀髪の、シスター服をまとった美しい女性。
──顔に、あざがない。元気そうだ。良かった……
「あ、ああ。大丈夫です、シスター。ありがとうございます」
──あれ。私はいま、何を想ったんだっけ?
急ぎ礼をつげると、立ち上がる。
「この方はアクターですよ、旅の人。あなたが騎獣から落ちかけたところを受け止めたのです」
「ああ、それは、本当にありがとうございます。アクター殿。本当に面目ない」
私は隣に立つもう一人の教会のアクターらしき人物に返事をし、元気であることを示すと改めて礼を告げる。
「よいのです。カヘロネーも。──ああ、どうもお知り合いの方たちがいらした様子。良かった。では、私たちはこれで。慈愛のバラの加護があらんことを」
祈りを残し、去っていくアクターたち。
そこに駆け寄ってくる、カリーンたち。
「おおい! 大丈夫か、ルスト! 急に落ちるのが見えたから、心配したぞ!」
「久しぶり、カリーン、ロア──アーリも、げんき、そ──」
なぜか私の頬を伝う一筋の雫。
「どうした! さっきの教会のものに、うまく受け止められているように見えたが、どこか痛むのか!」
「いや。いや、大丈夫──。目に砂が入ったかな」
なぜか、止まらない。
大地がぽたぽたとした雫で点々と湿っていく。
「……アーリ姉様、お知り合い?」
「……いえ、お会いするのは初めてのはずです」
驚き顔のカリーンの後ろで、小声で不思議そうに会話するアーリとロア。
──何で、止まらないのだろう。そういえば、私は後ろの二人の名前を何で知っているんだっけ?
心配そうにするカリーン。私はその間も、涙腺がうまく制御できない。
「……辺境の錬金術師として、王都にすらその名が届いている方がいらっしゃるとカリーン様から聞かされていたのですが──」
らちが明かないとばかりに、そこへアーリが口を挟んでくる。
変わらないその様子に、安心する。私は気がつけば、苦笑いを浮かべていた。
「お見苦しいところを見せて申し訳ない。ルストです。しばらくお世話になります」
「よろしくお願いいたします、ルスト。私はアーリ=フォース。こちらは妹のロア=フォースです」
握手を交わす私たちを見ていたカリーンが手を打ち鳴らす。
「よし、なんだか良くわからんが、挨拶はすんだな。それでは新しい領地に向けて、出発するぞ!」
カリーンの号令。
私たちは歩み出す。
こうして私は新しい仕事を始めることとなった。
~完~
「辺境の錬金術師~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~」Web版本編は以上をもちまして完結となります!
二年以上に及ぶ連載期間、五十万字以上のお話をここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
今後はコミカライズの更新にあわせて、ちょこちょこSSをアップしていきたいなーと思ってます。
よろしくお願いいたします。




