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【本編完結】辺境の錬金術師 ~今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理~《コミックス発売!》   作者: 御手々ぽんた
第六章

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今さら

 女性の形をしたサーバーの姿が消えたかと思えば、次には、周囲の機械類が一つ、また一つと金色の光と変化していく。


 その光が、ローズが巻き付いた古時計へとふわふわと近づき、吸い込まれていく。

 古時計の針が、ゆっくりと左回りに回転を始める。


 それは不思議な体験だった。

 サーバーからもらったスタミナポーションもどきの効果なのだろうか。私は目の前の柱時計と二重写しで、私たちの世界の時が巻き戻っていく映像が見えていた。


 その映像が、押し寄せてくる。巻き戻りを続ける世界が、まるで自分自身であるかのようにすら、感じられる。


 ──ああ。一つ目は、ここか。


 世界に埋め込まれた異物感。

 アレイスラの痕跡の一つだ。


 感覚として近いのは、手のひらに刺さったトゲ。ただ、時が確実に巻き戻りを続けるなかで、それに素早く対処しなければいけないようだ。


 刺さったトゲが、とても抜きにくい。

 そこにそっと差し出されたのは、ローズの蔓。蔓先には、金色のトゲ抜きが、一つ。


「ありがとう、ローズ」


 私はこんなときですら完璧なフォローをしてくれるローズに、感謝を告げる。手渡されたトゲ抜きで、素早くアレイスラの痕跡を抜いていく。


 巻き戻しが、進む。


 たびたび現れるトゲを、その度その度、抜いていく。


 時間の流れる速さは変わらぬままに、その向きだけが反転して、巻き戻りを続ける世界。


 いつ現れるかわからない痕跡に、一瞬たりとも気を抜くことが許されない。長い長い無為な時間。そして私は時たま現れるトゲを、ただただ抜き続けていく。


 何日も。

 何ヵ月も。

 何年も。


 一瞬も休まるときのない、張りつめた緊張が続く。


 ──このためのスタミナポーション風味だったのか……


 そして気がつけば周囲にあれほどあった機械類が消え、残りは最後の一つとなっていた。


 ──ようやく、終わる。……ああ、懐かしいな。


 巻き戻りを続けた世界は、ちょうど私が学院を卒業する間際まで、戻っていた。


 柱時計とすっかり一体化したローズが告げる。今ではすっかりサーバーとなりかわり、真に、神となってしまったローズ。


『ルスト、お疲れ様です。そろそろお別れです』

「ローズもお疲れ様。すまないが、あとは頼む」

『はい、ここまでしてくだされば世界は存続できます。残されたアレイスラの痕跡の対処はお任せを』


 そして時の潮流が反転する。

 ゆっくりと通常の向きに、時が流れ始める。


「──ちなみに、私はどうなるのかな?」


 うっすらと消え始めた自分の体を見下ろしながらローズに軽くたずねてみる。


『再び始まる世界に取り込まれ、その住人の一人として生き、死ぬことになりますよ、ルスト』

「そうか……」


 私はまだある、自分の手を見つめる。

 私の手に残っていたのは、使い続けてぼろぼろになったトゲ抜きだけ。それも、今にも壊れて消えてしまいそうだ。


『最後に、それを使っては? 少しだけなら運命に干渉できますよ』


 ローズの示した先には、錬金術協会の内定を受けている、現世の時の流れに浮かぶ自分自身の姿。


「それは……そんなことに使っていいのかな」

『良いのでは?』


 ローズの優しい肯定。


「まあ、たしかに今更予算ゼロの職場に戻るとかもう無理、だよなぁ」


 私は最後に、消え行く手にしたトゲ抜きで、運命に軽く干渉した。

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