すべてを
その笑みを、私は一生忘れることはないだろう。
美しく。
儚く。
妖艶であり。
そして何より、慈愛に満ちた笑み。
大地に膝をついた私の腕の中に横たわる彼女。
その命が、こぼれ続ける。
それを必死に止めようとする私の手は、どこまでも役立たずだ。それどころか、皮肉なことにその溢れだした命が手に触れると、呪術が半ば自動的に、すくいとってしまう。
ただただ悪戦苦闘する私を見つめる、優しげな笑み。
時を見つめるその瞳には、私に、彼女を救うための一切の手立てが残されていないこともお見通しなのだろう。
傷を癒せるポーション。
時を稼ぐことが出来た神域。
そのすべてを使ってしまった。
絶望に沈みつづける私へ、その唇が言葉を紡ぎ、伝えてくる。
声帯を震わす力すら失われ、もう、音になることも叶わない言葉。
しかし、その一挙一動の全てを見逃すまいと全神経を傾けていた私には、唇の動きだけで、何を言いたいのか、理解してしまう。
わたしの、すべてを
慟哭が聞こえる。うるさくて、うるさくて、かなわない。
ああ。どうやら、私の声だ。
アレイスラの苦痛に満ちた叫びなど、たやすくかき消し、辺りを圧倒するその声量。
自分から、こんなに大きな音が出るのが不思議なぐらいだ。
そして、急に訪れた静謐。
世界にはかわらず慟哭が満ちているのに。
私の心は凪いだように。その瞬間から、なにも感じることが出来ない。
その静謐に促されるようにして、私はアーリのすべてを、受けとる。
ローズの蔓にまとう金色の光の帯が、爆発する。光が一気に膨らむと、次の瞬間、反転し急速に縮んでゆく。
きつくきつくアレイスラの体を絞り上げる光の帯。
ついにはその体へと、食い込んでいく。
不思議なことにタウラの体には傷一つ、つかない。かわりに、タウラの体のなかから、アレイスラの本体らしきものが光の帯によって引きずりだされてくる。
これまでにない、絶叫。
その人と良く似た姿をしたアレイスラを確認できたのはしかし、ごく短い時間だった。
タウラの体を優しく地面に横たえ解放したローズの蔓が、光の帯に添うようにしてアレイスラの本体へと巻き付く。
全身をローズの蔓に覆われたアレイスラが、一気に、絞り潰される。
絶叫が、止む。
ほぼ同時に、私の腕の中では、微笑みを形作っていた口角が、役割を果たしたかのよう力を失い。
つい、先ほどまで優しげにこちらを見つめていた瞳からは、すでに光が消え去っていた。
その時だった。
ローズに、異変がおきる。




