可能性の世界のはてに
それは、痛々しいまでに傷だらけだった。
私の意識のなかでみえる、ロアの心。
ところどころが大きく抉れ、その縁は、非常に鋭利な鋭さを持っている、宝石のように見える。
気安く手を触れれば、容易く傷だらけになりそうなそれ。しかしその色合いはラピスラズリのように、どこまでも深い。
何よりも、鮮烈な美しさがうちに秘められていた。
──ああ。これが、ロアの本来の瞳の色なのか
その蒼き色を見て、唐突に私はそう理解する。
そしてその痛みを、傷を、少しでも共有したくて、気がつけば、私は腕をのばしていた。
そのまま、ぎゅっと抱き締める。
すると、その鋭利に見えたものが不思議なことに、私の腕の中で鋭さを失っていく。まるで氷がとけるようにその形をかえる。
おずおずと。
寄り添うように。
それはまるで、どこまでも私の腕を──私を、受け入れてくれるかのようだ。
しかし、その安寧とした時は、ほんの一瞬だった。
カリーンの時と同じように、ロアの『想い』と『記憶』が一つとなったそれも、私の腕の中で、端から崩れおちていく。
現実のロアの体の、その重さを腕に感じたときにはもう、新たな金色の光の帯が一筋、ローズの蔓へと追加されていた。
そっと差し出されたアロマカズラの蔓が、優しい仕草で意識を失ったロアの体も包み込んでゆく。
「ロアを、優しく受け入れてくださってありがとうございます。ルスト師」
アーリがロアの頭を撫でながら、告げる。
蔓に包まれてゆくロアを、いとおしげに見つめながら。
私はただただ激しく首を横に振ることしか出来なかった。
しかし、それでも、そんな状態でも気づいてしまう。
「アーリっ! 自分を最後にしたのは……」
「ふふ。さすがルスト師ですね。どの未来でも、ここで気づかれてしまうのですから」
「足りないのか、足りないんだなっ! なら、私の記憶と感情をっ!」
「ダメですよ、ルスト師は。万全の状態でなければ。アレイスラを消し去ろうとして、失敗してしまいます」
右手に持った槍の穂先を自らの首筋に当てるアーリ。
「ごめんなさい、ルスト。愛してます」




