力あるものの孤独
「アンちゃんさん、空へ」
「わかったのじゃー! ともにありたいというわしの望みを認めてくれて、ありがとなのじゃ、血の契約者殿ー! それ、行くぞ、セイルーク!」
私の呼び掛けに、アンちゃんさんもドラゴンの姿に戻ると、二匹は連れ立つようにして空へと羽ばたいていく。
これからアレイスラと対峙するにあたってアンちゃんさんたちには、避難してもらったのだ。
「……千年の孤独、か」
それはアンちゃんさんから圧縮され送られてきた説明のなかにあったフレーズだ。
──千三才だというアンちゃんさんの過ごした年月が急に他人事じゃなく感じられるんだよな。たぶん、この力のせいかね。
この世でたった二匹きりのドラゴンたち。私は自らの手のひらを見て、一瞬だけアンちゃんさんのその強い望みについて、思いをはせる。しかし、すぐに気持ちを切り返えると、一気にアレイスラに仕掛けることにする。
「プレート。『顕現』のスクロール展開率を」
『百パーセントです』
──よし。ぴったりだ。間に合ってくれているといいんだが。
私はアレイスラの様子を見ながら告げる。
「全制限を解除。実行」
『制限解除完了。スクロール『顕現』の完全発動を代行します』
『顕現』のスクロールから溢れだす光。その相克する二つの光が混じりあい、黄金色へと変わる。
その黄金色の光が大地へ、海へ、空へと降り注ぐ。
あまねく世界が黄金色に照らされていく。
『発動成功。神域「カゲロ機関分室」の完全顕現を確認』
世界が書き換えられていく。
「うぬ? なんだここは。わらわがせっかく世界の味を堪能していたというに。これでは旨く食べられぬではないか。邪魔したのはまた、お主かぇ」
アレイスラの足元で蠢く邪悪な塊たち。ローズの蔓で覆われた大地では、うまく機能していないのか、モゾモゾと蠢いていた脚のような部分が萎縮したように縮こまっている。それをローズの蔓が次々に拘束し、クビリ潰されていく。
私の足元の近くにも一つ。
ローズの蔓が持ち上げたタイミングでばっちり視界に入ってくる。
近くで見るといっそう禍々しい。
心臓のように脈打ち、そこから生えた動脈が途中から無数に枝分かれして脚のような形になっている。
締め付けるローズの蔓にキーキーと高い音を出しながらぶちゅっと潰れていく。
音の発生した側に無数の歯のようなものもちらりと見えた。
「おぞましいな……」
私が思わずこぼした呟き。
「心外だのぉ。わらわの民をおぞましいとは。素晴らしく機能的ではないかぇ。この機能美がわからぬとはな。にわかの神は、これだからのぉ」
やれやれと首を振るアレイスラ。相変わらず余裕の様子だ。アレイスラにとって自らの民がいくらローズにクビリ殺されようが気にならないらしい。
──これが、本当に民だというのか? それにしても、ものすごい数だ。
見渡す限り、世界を覆い尽くしたローズの蔓。それがアレイスラが世界を食らうためにつかわした『アレイスラの民』を、次々に補足していく。本当に、いたるところに潜んでいるようだった。
「さぁて、さっさとこの紛い物の世界とにわかの神を殺して、続きを美味しく頂くとするかのぉ」
タウラの顔でペロリと舌なめずりをすると、アレイスラが大きく両手を広げる。
その両手のひらから、ぼたぼたと『アレイスラの民』が溢れ始めた。




