side リハルザム 7
照りつける太陽がその肥えた体へ照りつける。たるんだ脂肪に埋もれた汗腺から、だらだらと溢れるように汗が吹き出している。
荒れ地を吹き抜ける乾燥して埃っぽい風が、その汗に砂を含ませ、一歩踏み出す度にジャリジャリとした音すら聞こえてきそうだ。
随行の人員を協会長から許可されなかったリハルザムは、仕方なく冒険者ギルドで護衛を自費で雇い、辺境へと入り始めていた。
雇ったのは冒険者ギルドの顔馴染みの冒険者達。何度か後ろ暗い仕事を依頼している相手だ。
そんなチンピラのような冒険者が、三人。しかし普段は街中で弱い相手をいたぶっているような三人には、当然、武の心得など無く。リハルザムは自作の新型魔法銃を、属性変化の魔導回路つきで貸し与えていた。
「リハルザムの旦那、本当にこの道でいいんですかい?」と冒険者のうちの一人、デデンがリハルザムに問いかける。
「……ああ、そのはずだ」とおっくうそうに応えるリハルザム。
「それよりもわかっているな? わざわざ属性変化の魔導回路つき、しかも俺のお手製だ!」と苛立たしげに言いつのるリハルザム。
「わかってますよ、リハルザムの旦那。ルストとかいう奴を後ろからズドンっでしょ? 丸焦げにしてやりますって」
「しっかりやれ。死体はモンスターどもに食わせやすいように、誘い出してからだからな。あと、あの野郎はたんまり金を持っているはずだ。旧型の魔晶石を作っているのは、あの野郎に間違いない。いいか、山分けにしてやるんだ。しっかり口を閉じておけよ」とじろりと睨むリハルザム。
「へいへい。任せてくだせえって」と肩をすくめて逃げるように距離をとるデデン。
「全くどいつもこいつも。ああ、暑い。あの野郎がこんな辺境にいるのが悪いんだ」とぶつぶつ呟くリハルザム。
「協会長も協会長だ。あの野郎を呼び戻すのに、面子を気にして記録が残らないように口頭で伝えろとか、馬鹿かっ。通信装置で送ればいいんだ。予算を少しばかりつけてやるから戻れとな。あの野郎なら、それだけで泣いて喜んで戻ってくるってのに。何が戦争の英雄の騎士様だ。そんな辺境の新興貧乏領主相手に、面子を気にするとか、どうかしてるっ!」だんだんと目がすわってくるリハルザム。ぶつぶつと独り言が止まらない。
それどころか、だんだんと大声になっていく。
モンスターの豊富な辺境には、当然のように音に敏感な種類も多い。
岩の隙間から、リハルザムの大声に反応してちょうど現れた、蛇とも蔦とも見える、放射状に歯の生えたモンスター。
ヒポポの踏みつけなら一撃でつぶれるようなその名もなき蛇蔦モンスターも、実は厄介な性質があった。
「おい、デデン! モンスターだ!」
「へっ! ああ、なんだ。こんなちいさけりゃ、楽勝楽勝。おい、お前ら、やっちまいな」と仲間をけしかけるデデン。
同じように魔法銃を貸し与えられているデデンの仲間の一人が、魔法銃を構えると、属性変化の魔導回路をいれたまま、撃つ。
着弾。そして腹に響く、爆発音。
拳大の炎の塊が、魔法銃から発射され、勢いよくモンスターに当たり、弾けるように爆発したのだ。
粉々に吹き飛んだモンスターの残骸。
「いぇーい」デデン達の野太い歓声が爆音に被さる。
「楽勝じゃねぇ? 俺がやりたかったぜ」とデデン。
そのデデンの希望を叶えてくれたのか、辺り一面に響いた爆音にひかれて、岩という岩の隙間から、続々と蛇蔦モンスターがにょろにょろ、にょろにょろと這い出てくる。
「お、多くないか?」と仲間が焦ったようにデデンに話しかける。
「いいから、撃ちまくれ!」とそれに対して大声で応えるデデン。当然、デデンも魔導回路を抜く事など意識にも上らずに、引き金を引きまくる。
「おい、撃ちすぎるな」と冒険者達に向かって叫ぶリハルザム。しかしその声は爆音に遮られ、届くことはなく。
大量にばら撒かれる拳大の炎。
着弾の度に上がる爆音が絶え間なく響く。
爆風に乗って、煙と、蛇蔦モンスターの焼けた体液混じりの風がリハルザムの顔へと吹き付けてくる。思わずむせこみ、話すどころではなくなるリハルザム。
そうしているうちに、ついには地面を覆い尽くさんばかりの蛇蔦モンスターが沸いて出てきた。
必死に魔法銃を撃つデデン達。
そして異変は起こる。
ぼふっ。
そんな銃に似つかわしくない音がして、デデンの持つ魔法銃から炎が、上がる。銃口からではなく、魔導回路を差し込んだ部分から。その炎は一瞬で、デデンの眉と前髪だけを焼く。
「あっつっ! 熱い!」
チリチリになるデデンの髪。チロチロと毛先でくすぶる炎をデデンが手のひらで叩いてなんとか消し止める。
不細工がアップした顔を必死に擦るデデン。
「おい、デデン! 遊んで無いで、さっさと撃て」とデデンに怒鳴るリハルザム。
「はいはい。……あれ、おかしいな」と引き金を引くデデン。しかし、起こることと言えば、チリチリ前髪が風になびくだけ。
デデンの魔法銃は全く反応しなくなってしまった。
さらに、なんとか稼働していた二丁の魔法銃の、新型魔晶石の魔素が尽きる。撃ちすぎで。
「リハルザムの旦那! 替えの魔晶石と魔法銃をくだせえ!」と必死に呼ぶデデンの仲間。
しかしその回答は酷いものだった。
「替えなんてない!」と言い捨てるリハルザム。
お互いの、使えない魔法銃を交互に見る冒険者達。その間にもはい回る、蛇蔦のモンスター達。
冒険者達は互いに無言で頷く。そして、蛇蔦モンスターとは反対方向に一気に走り出す。その先に別のモンスターの巣があるとは全く気がつかずに。
「おい、待て……」そんなリハルザムの制止の声など冒険者へ届くことはなく。一人残されたリハルザム。その足元へ、ついに蛇蔦モンスターが迫りつつあった。




