魔王を屠りし力とポーションの価値
「ふむ。面白くもない名乗りじゃのぅ。ほれ、そこのドラゴンよ、食ってよいぞ」
アレイスラが急に興味を失った様子で、そうセイルークへと話しかける。
一つ、大きく叫ぶと、翼を動かし急上空するセイルーク。
もう絆が切れたからだろう。一切その意思は伝わってこない。叫び声も、ただただ、耳ざわりな音だ。
上空へと舞い上がったセイルークが、こちらを見下ろしてくる。アレイスラとよく似た無機質な瞳。
セイルークがその口を大きく開けると、ドラゴンブレスが放たれた。それは先程、深海の魔王たる妄執の一席を滅ぼした本気の一撃。
しかし私も、それをただ待っていたわけではない。
宙を舞うスクロールのうちの一つ。イブを『顕現』している物を手元へと引き寄せる。
「ローズ。姉妹の塔へと接続。例のものを」
ローズの蔓の一つが、時空を突き破る。生まれたのは、転移の空間の穴だ。
その空間の穴から、ローズの蔓の先がすぐさま引き抜かれてくる。
蔓が巻き付いた状態で現れたのは、一本のポーション。
特別製の、加護を詰め込んだポーションだ。
ツヴァイの力を解析していたった、加護の正体の仮説。それは、アーリも使う、スキルという物を抽出し、実体を持たせた物ではないかというものだった。
その仮説をもとに、私の知りうる限りの錬金術の知識を総動員し、呪術と浄光を媒体として錬成した加護のポーション。
私はローズからそれを受けとると厳重に施したポーションの瓶の封を解く。そのまま手元のスクロールへと急いで振りかけるように注いでいく。
変化は、劇的だった。
ポーションの溶液が、イブのスクロールへと染み込んでいく。スクロールが、脈動するように震え、真っ赤に染まっていく。
ポーションに込めた加護の力が、スキルとなってスクロールを通しイブへと流れ込んでいっているのだ。
その際に、スクロールからわずか数滴こぼれたポーションが、空気中でその内包する加護を発現してしまう。受け取る先のなかったスキルの力。それもすぐにスキルという概念が崩壊し、単なるエネルギーへと変わってしまう。
それは、爆発だった。
濃縮され無理やり液状化させていたものが、解放され崩壊する事で生じる純粋なエネルギー。
私の身を守るようにかばってくれる、過保護なローズの蔓。その隙間から覗いていると、発生したエネルギーの生み出した衝撃が、セイルークの放ったブレスとちょうど、ぶつかり合う。
特製のポーションの数滴に込められたエネルギーの、意図しない発露。
たったそれだけで、セイルークの渾身のブレスはあっさりとかき消されてしまった。




