転移
空間に開けた穴をくぐり抜ける。
その先にいるヒポポ。
そして、その上にまたがったままのタウラの姿をしたアレイスラ。
──よし。ツヴァイが喰われてからあまり時間が経たずに戻ってこれたみたいだ。位置は少し、ずれたか。
その時だった、ヒポポがガクガクと震えながら崩れ落ちるように膝をつき、砂の大地に伏せる。
何を見たのか、恐怖と畏怖に満ち満ちた、ヒポポの表情。
ヒポポの上にまたがっていたアレイスラは、ふわりと浮かび上がると、地面から数センチのところで浮遊している。
浄光をしたたらせた両腕を軽く開き、浮かぶその姿は禍々しくも神々しい美しさだった。
そのアレイスラの視線がヒポポへと向く。その無機質な瞳に浮かぶ、嫌な感じの光。
私は神であるアレイスラの勘気に、ヒポポが触れた可能性を感じる。
それはとっさの判断。急いでヒポポを送還させる。
その瞬間だった。ヒポポが一瞬前まで伏せていた場所に、渦巻く炎が立ち上る。
「ほぉ。いまの、ぬしがやったのかえ。わらわの咎めを邪魔立てするとはのぅ。命知らずよな」
先程まで無表情だったアレイスラの顔に浮かぶ酷薄な笑み。
「ヒポポは大切な仲間だからね。それと、そのタウラの体は返してもらうよ、アレイスラ」
「わが神気を浴びて、よくぞ、その口上。ではこれならどうするかのぉ」
鷹揚に腕を振りながらそう告げるアレイスラ。
どうやら神気とやらは加護の一種のようだ。アレイスラの腕の振りにあわせて、何か不可視の、しかし実体を持った圧力のようなものがその場に広がるのを感じる。
私はツヴァイの力を得たせいか、どうという事はない。
しかしその場にいた皆はその顔を恐怖に歪め、倒れてしまう。
ただ、一人膝をつくだけでその神気に耐えたカリーンが、アレイスラのいる場所一点を見据えて叫ぶ。
「私が、引き付ける。みな、逃げろっ!」
「大丈夫、任せて。皆も安全な地へ」
私はカリーンの背後にたつと、その肩に軽く手を添える。
それは先程私がツヴァイの手をとり転移した技術の応用。カリーンを『カゲロ機関分室』の世界へと転移させる。
「『顕現』ローズ。皆を頼むね」
私が取り出したスクロールから溢れだしたローズの蔓が、その場にいる仲間たちへと絡み付いていく。アレイスラの神気によって恐怖に歪んだ皆の顔が驚きに染まったと思うと、次々に『カゲロ機関分室』の世界へと転移していく。
ロアも、アーリも。そしてアドミラル領軍の皆もレッサーヒポポごと。
そうして、そこに残ったのはもう、私とローズ。
私と対峙する、アレイスラとセイルーク。
そしてそんな私たちを取り囲むイブの指揮するタケノコアーミー達だけとなった。
──残っていた半魚人達は、私が居ない一瞬の間で、アレイスラに喰われたのか……。
その時、アレイスラが尊大な仕草で話しかけてくる。
「こうも効かぬとな。そしてその力。そなた、何者や。名を名乗るのを許すぞ」
「ルスト。アドミラル領カゲロ機関機関長の、ルストだ」
名を告げると、私はアレイスラへと最初の一手を打った。




