準備完了
「できた!」
私の目の前には、一本のスクロールが浮いていた。
錬成に全面的にバックアップしてくれたローズもその蔓を打ち合わせ、拍手して私の労を称えてくれる。
私は改めて、全てを注ぎ込んだ渾身の一本であるスクロールを、じっくりと眺める。
スクロールの芯に使用したのは、かつて地上を支配していたとされる巨獣の骨。地下の倉庫にあったものだ。そして、同じく倉庫にあった、深海の覇者と伝説にうたわれる海洋哺乳類の皮をなめした物を、羊皮紙のかわりとして魔導回路その他を組み込んである。その魔導回路を形成する溶液は三種類。
その溶液のせいだろう。ただ浮いているだけで、浄光の光と、呪術の黒い闇が相克するかのように、そのスクロールの周囲で渦巻き、それを包み込むように魔素が輝いている。
「ちょっと、派手すぎかな?」
私の呟きに大丈夫大丈夫と蔓を振る仕草で答えてくれるローズ。
「そうだよね。存在の重みで歪む時空も、最小限に抑えたし。よし、それじゃあいよいよアレイスラとご対面といこうか、ローズ。そちらもバックアップを頼むね」
すでにこの『カゲロ機関分室』の世界の表層をあまねく覆い尽くしたローズが、任せてとばかりに、その全身を使って答えてくれる。
それは文字通り、世界自体が揺れているようだった。
さらに、この世界の中心には、天を突くバラの蔓で出来た巨木のような塔が一つ、出来ていた。
圧倒的偉容を誇るそれは、塔の表面に真っ赤なバラが隙間なく咲き乱れている。それらはローズから株分けされ、同等の処理能力を有した姉妹達。その姉妹達の蔓が絡み合って、塔は形成されていた。
便宜的に「姉妹の塔」と名付けたそれ。
そのなかには対アレイスラのために準備した錬成品がぎっしりと詰まっているのだ。その無数の錬成品の管理と行使が、ローズの姉妹たる彼女達の役割だ。
この姉妹の塔が、アレイスラに対する私のもう一つの切り札。
ローズとその姉妹達に見送られ、私は元の世界へと転移した。




