ハーツニクスの血
──白い。……フラスコの世界とやらに戻ってきたのか?
私の目の前には、椅子に腰かけるツヴァイの姿があった。
──いや、違う。これも、別の記憶か。しかも、先程のよりも、もっと以前の……。
「不義の三席が、やられただとっ!? どういうことだ。彼女は呪術師によって封じられていたはず。それにこれは、新しいホムンクルスが生まれている?」
椅子から立ち上がり、ツヴァイが叫ぶ。
そのまま慌てたように手を打ち鳴らすツヴァイ。
加護が、発動する。
ツヴァイと、私が作ったツインテールホーンのナイフの浄光が加護の力によって繋がるのが、背後にいる私にもわかる。
──何が起きているのかも徐々にわかるようになってきたな。これがツヴァイの力を取り込む、ということか。
「このホムンクルスは、一体なんだ? 歪にもほどがあるぞ。武器の形に押し込められて誕生させられたのか。魔素と呪いを錬金術で繋ぎ、それにこれはハーツニクスの血? そんなバカな。ハーツニクスはすでに……」
繋がった先のツインテールホーンのナイフの浄光に、驚きをみせるツヴァイ。
「この浄光で、不義の三席が倒されたのか……。しかも、使用者は、邪神アレイスラの託宣の加護持ち、だと! これは危険だ。早急に調べなければ……。そうとなれば……」
二度、手を打ち鳴らすツヴァイ。
──そうか、このせいで不義の三席を倒したときにタウラは拐われてしまったのか。不義の三席の死が、ツヴァイへ情報が伝わるトリガーになっていたのか。
「よし、捉えたぞ! 転移先は、そうだな。まずは地下の倉庫にして、様子を見てみるか。何か情報が得られるかもしれない」
タウラが、フラスコの世界へと転送されてくる。ツヴァイが下を覗き込むしぐさをすると、足元に半透明のプレートが現れる。そこには拐われてきたばかりのタウラの姿があった。ナイフを突きだした姿勢から、力尽きたように座り込むタウラ。
──タウラっ!
「……ふむ。ただのアレイスラの犬か。託宣の加護はあるが、ハーツニクスの血縁ではないな。とはいえ、その加護の力は危険だ」
暗い倉庫のような場所でうずくまるタウラを観察しながらツヴァイが喋り続ける。
その時だった。ツヴァイが驚愕の表情を浮かべる。
「なんだこれは! 強制的にアクセスさせられているぞ! あのナイフの……共感呪術だと。呪術師なのか? まさか!」
半透明のプレートの表示を急いで確認していくツヴァイ。
──ああ、これはあの時の私のタウラへの通信か。
「通信が、妨害できないっ! 見たこともない術式だ! ええい。解析を急げ!」
プレートに向かって、そう叫ぶツヴァイ。
──まあ、見たこともない術式だってなるよね。あの時の思い付きで、魔導回路に呪術を強引に組み合わせて、急造したものだったし。それより、ツヴァイのあの半透明のプレートって、半自立型の意識があるのか。とても興味深いな。ツヴァイの加護の補助までしている……
流れ込んでくる知識に感心していると、その半透明のプレートの先で、タウラがちょうど手にしたままだったナイフに向かって、話し始める所だった。
『ルスト。本当に、ルストなのか。急にナイフから、声がしたから。私は無事だ』
私と会話するタウラの声に、黙りこんだツヴァイがじっと聞き耳をたてている。
『ここは、とても寒くて、どうも息苦しい。まるで何か恐ろしい者がいるかのような圧を感じる。それに、真っ暗で周りもよく見えない──』
その時だった。ツヴァイが急にタウラのいる地下へと転移する。
『あっ! 眩しい光が……』
タウラの目の前に現れたツヴァイがタウラに向かって手をかざし指を鳴らす。どうやらツヴァイはタウラが余計な情報を話すのを阻止したかったようだ。
すとんと気を失うタウラ。
その手からツインテールホーンのナイフが落ちる。
ナイフを拾い上げ、プレートをかざして私が繋いだ通信を強制的に切断するツヴァイ。
「ルスト、と言ったな。その者がシュトルナ=ハーツニクスの血縁か。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス。覚えたぞ」




