ツヴァイの説明
「まっ! 待ってくれ。確かにタウラの様子は尋常じゃなかった。素手で浄光のお前を握りつぶしていたことから考えても、何らかの、……それこそ神に等しい存在に操られている可能性は認める。たが、女神アレイスラが邪神? それにセイルークは? あいつもその邪神の仲間なのか? それにお前の力が、なぜ私なら受け取れるんだ?」
伸ばされたツヴァイの影の手を前にして、私は質問を重ねる。
到底素直に受け入れられない事ばかりが立て続けに起き、混乱ぎみになっている自覚はあった。しかしそれでも、このまま簡単にツヴァイの手をとることは出来なかった。
「この影に、全てを説明する力はもう、残ってはいない。それにルスト=シュトルナ=ハーツニクス。君の選択はすでになされたのだよ。僕の本体がアレイスラに貪り食われた瞬間に手を伸ばしたことで」
「あれは、とっさに──」
──確かにあれはとっさの行動だった。しかし、何で私はあの時、敵であったはずのツヴァイに手を伸ばしたんだ? どこかで感じていたのか。違和感を。
「さて、このまま手をとらずにいれば僕の影は消えて、君はこのフラスコの世界に留まることになるだろう。その方が君にとっては、もしかしたら幸せなのかも知れない。しかし、僕は困るのでね。一つだけ、質問に答えよう。それで決めたまえ。どうするかを」
そんな無茶苦茶を言ってくるツヴァイの影。
──確かにタウラの肉体にアレイスラが受肉していて、あらゆるものを貪り食おうとしているのなら、こんなところにいる場合じゃない。急がないと、ここで言われた通りに神の力とやらをもらってあちらに戻ったとしても、そこに待っているのは……
私が協会を辞めてから出会った、大切な者たち。あの場にいた者も、そうでない者もいる。
しかし、誰もがひとしく危険なのは間違いないだろう。
「ふう。なんにしてもその手を取らないと、ここからすぐには出れないんだな。あちらに繋がっているはずの穴を、探す時間もない、か。じゃあ、質問はこれだ。なぜ、私なんだ?」
私は自分が簡単に覚悟を決めたことについて、自分でも意外に思いながら、せっかくなので質問もしておく。
「一番面倒な質問だな。よろしい。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス。君はかつて神に最も近づいた錬金術師であるシュトルナ=ハーツニクスの末裔だ。僕はそのシュトルナ=ハーツニクスによって作られたホムンクルスである。永き年月の果てに、僕も亜神たる存在へと至ったが、その力の根源は同じなのだ。それと、君は自分でも気がついているのではないかね。君自身の特異性に。君は、君たち一族は、器なのだよ。それが、この世界を形作った原初の神によって割り振られた、ロールだ。君は錬金術のあらゆる知識をその受け皿たる自身に吸収し、かつてのシュトルナ=ハーツニクスのようにホムンクルスに生成まで至った。そればかりか進行役のロールを与えられていた呪術師の力までも吸収しただろう。アレイスラにくみするドラゴンと契約していたが、奴が勇者へと至ったことで幸いその契約も切れたはずだ。故に、君なのだよ。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス」
そこで一度言葉を切り、再び手を伸ばしてくるツヴァイの影。
その体が徐々に消えかけている。
「さあ、手を。そしてアレイスラを阻止してくれ」
私は納得のいかないこと、疑問に思うことはいくらでもあった。
しかし、なすべきことはとても明瞭だった。
──ここでこのまま何もしないって選択肢はないからな。どうなるかは全くの未知だけど……
私は勢いよく、その消え始めたツヴァイの手を取った。




