アレイスラ
「タウラ?」
私は振り返りながら呟く。
その様子は明らかにおかしい。それどころか、異質だ。人とは思えないほどの──
「ルスト=シュトルナ=ハーツニクス! こいつは、アレイスラだ」
わしづかみにされながら、じたばたと手足を振り叫ぶ、ツヴァイ。何度も手足を打ち鳴らしているが何も起きない。
「うるさいと、いっただろう? 亜神のくせによくもさんざん、わらわを邪魔してくれたなぁ。ホムンクルス?」
タウラの姿をしたものが、とても楽しげに笑う。
純粋な悪意。
タウラの顔でそんな顔をする存在に、思わず怖気がはしる。
ツヴァイを握った手に、焦らすようにしながら力を込めていく、アレイスラと呼ばれた者。
実体が浄光であるはずのツヴァイが苦痛のあまり、悶絶する。
浄光で出来たそのツヴァイの体が、ついにアレイスラの手で握り潰され、半分に千切れた。
ツヴァイの声にならない悲鳴。
千切れ落ちるツヴァイの下半身を、反対の手で受け止めると、指でつまむようにして、ゆっくりと頭上に掲げるアレイスラ。
顎をあげ、その白い喉を大きくさらしながら、口を大きく開ける。そのまま、ツヴァイの千切れた下半身を丸飲みにし始める。
ツヴァイの下半身が、アレイスラの口のなかに消えていく。そして、その喉を通っていくのがわかる。
こぼれた浄光のついた指先を、自らの口へつっこみ、ジュルジュルとなめとるアレイスラ。今度はその手を、ツヴァイの顔へと伸ばす。
「さあ、次は頭を潰しましょうねぇ。すべて、わらわの糧にしてくれよぅ」
両手のひらで包むようにツヴァイの頭を握ったアレイスラ。まるで果物を絞るような気軽さで、その指がツヴァイへとめりこんていく。
「ぐぅぅっ! はーつ、にくす、……うけと、れ」
苦悶の声。その合間に、ツヴァイがなぜか私の方へと片手を伸ばしてくる。
私が反射的に手を伸ばした時だった。
ぐちゅっと、ツヴァイの頭がつぶれる。
その下に待ち受けるアレイスラの口。
ツヴァイの上半身がバラバラになり、ドロリとした浄光が、大きく開いたアレイスラの口へと、吸いこまれるように飲み込まれていく。
しかしその直前。私の指先は、ツヴァイの伸ばしていた手の残骸に、ちょうど触れていた。
それが何かの引き金だったのだろう。
転移に似た感覚。
私は、気がつけば別の場所にいた。
あたりは白く染まっている。見覚えがある。
「ここは、もしかして……?」
「僕の神域だ。フラスコの世界。一度来ただろう?」
目の前に、ツヴァイが現れる。始めて遭遇したときと、同じ大きさと姿をしている。
「ツヴァイ! ──本物、か?」
思わず私は身構える。
「いや、これは意識の残滓のようなもの。本体はすでに虚無へと還った。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス。これは、お前に力を渡すために、急ごしらえで用意した影にすぎない。役目を果たせば、消える」
「──力?」
ツヴァイの影はそこで深々と頭を下げるようにして、告げる。
「ああそうだ。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス。アレイスラ、を止めてほしい。そのために、僕の亜神としての力の全てを、託す。器たるハーツニクスの血族のものなら、受け取れるはずだ。さあ、手を」
そういって、ツヴァイが腕を伸ばしてきた。




