過食の末席
「ルスト師!」
「──大丈夫。──いけたっ!」
先ほどからロア達と話ながらも行っていた準備が、無事に完了した。
リハルザムの魔石から作った魔導具──過食の器、と私はこっそり呼んでいる──を起点にして、『複合展開』させ『結合』したスクロール群が、私の目の前で安定しながら浮いている。
通常、八本のスクロールで行う『連続顕現』。
しかし、いま私の前に浮かぶのは、過食の器を起点とした七角形の魔法陣だ。
そしてこれが、長時間の展開が難しいスクロールの『複合展開』に対しての、私の答えでもあった。
「『全個体同時顕現』ヒポポブラザーズ」
起点となった過食の器から、大量の魔素が、ぎちぎちと搾り取られるようにして、結合した六本のスクロールへとうつり、満たしていく。
その間、なぜか過食の器からは、まるで悲鳴のような音が響いている。
その悲鳴を突き破り、ヒポポブラザーズ達が現れた。
一瞬にして、ヒポポブラザーズの全個体が、魔法陣から一斉射出されたのだ。その勢いのままに、丘の上から転がり落ちるようにして進み始めるヒポポブラザーズ達。
それはまさに、カバの濁流だった。
そもそも、シェルルール製のレッサーヒポポに比べると、ヒポポブラザーズ達は一回り以上大きい。子供と大人ぐらい、その大きさに差があった。
そんな子供のようなレッサーヒポポ達を助けるように、敵に殺到していくヒポポブラザーズ。
こんな無茶な顕現も、過食の器を使用したことによる、潤沢な魔素のおかげだった。そして何より嬉しいことに、今回は私の負担が軽い。
「──なに、これ」
さすがのロアも、あんぐりと口をあけて濁流となったヒポポブラザーズを眺めていた。
そうしているうちに、アドミラル領軍に今まさに迫らんとしていた巨大ウニに、ついにヒポポブラザーズ達が到達する。
ウニが、まるでおもちゃの玉のようにカバの濁流に弾かれ、空高く飛んでいく。
あまりの衝撃に、空中でバラバラになるウニ。
「ふぅ。無事、間に合って良かった」
私はほっとため息をつく。
「──ルスト師、その魔導具は結局、なに?」
気を取り直したようにたずねてくるロア。
その指差す先は、相変わらず苦しげに悶え、悲鳴をあげているようにみえる過食の器。
「あー。簡単に言うと、魔素を溜めておけるもの、だね。ただ、なんか溜めた魔素を取り出すときに、あんな感じで変な音がするんだよね。要改善のポイントなんだけど──」
「まあ、そんなに問題はないと私は思いますよ。だんだん音も小さくなってますし」
そういってくれるタウラ。でも確かに音は小さくなっている気もする。
「断末魔みたいで、気持ち悪い」
相変わらず辛辣なロア。私は話を進めることにする。
「まあ、それでなんだけど、リハルザムはどうやら魔族になった時に、その八番目たる末席になったみたいで」
「過食の末席」
「そうそう」
「それであれほどの王都の食料を食い荒らしていたのですね」
納得した様子のタウラ。
「それでその性質がちょうど魔素を溜めておく魔導具によくてさ──」
「なんとも面白くなさそうな話をしているな。ルスト」
「あ、カリーン。おかえり」
「アーリ姉様! ご無事でなによりです」
そこにアドミラル領軍とともに、カリーンとアーリが戻ってきた。
「それで、カリーン様。ツヴァイ、いた?」
アーリにぎゅっと抱きついたまま、ロアがカリーンにきく。
「たぶん、あの中だ」
そうロアに答えるカリーン。
指し示す先には、妄執の一席がいた。




