side リハルザム 5
「ルストの野郎を呼び戻すなんて、とんでもないっ」とリハルザムの悲鳴のような声が協会長室に響く。
ばんっと机を叩く音が響く。さらに言いつのろうとしていたリハルザムも流石にその音で口を閉じる。
「リハルザム師、見ろ。この報告書の量を! 各部門から上がってきたものだ。内容はどれもこれも同じ。基礎素材の質の低下による錬成失敗の言い訳に、基礎素材調達に時間がかかるから納期を延ばしたことに対する取引先からのクレームの報告ばかり! わしなど他の協会長から散々嫌みとともに、納期を守れとせっつかれておるのだぞっ!」と再び怒りに任せて机に両手を叩きつける協会長。
「リハルザム師、お前が言ったのだ。ルスト師がいなくてもどうとでもなる、とな。それがどうだ。この有り様は! 貴様はそれどころか協会に損害を与えてばかりではないか! 建物中の壁という壁に大穴をあけおって! しかも未だに臭くてたまらん!」
「そ、それは……。しかし、ルストを連れ戻すのは反対です! それにあいつがいなくても錬金術協会の売上は過去最高を記録するはずです! 先日納品した大量の新型魔晶石の売上がもうすぐ……」
「そんなことはわかっておる! しかしいいか。ルスト師が辞めたことによる業務の穴はリハルザム、お前が責任を持ってなんとかしろ! それが出来ないようならお前にルスト師を呼び戻しに行ってもらうぞ」もう話は終わりだとばかりに背を向ける協会長。
顔を真っ赤にし青筋を立てて、それでもそれ以上の抗弁するのを我慢した様子で退出の挨拶を口にするリハルザム。
足音も荒く、リハルザムは武具錬成課へと戻る。
廊下にも微かに漂う悪臭が一際強くなった頃、武具錬成課の部屋にたどり着く。部下達が必死に片付けたのだろう。室内はなんとかみられる様子まで戻っていた。こびりついて取れない悪臭を除いて。
顔を真っ赤にしたまま席にどかりと座り込むリハルザム。
その場にいた武具錬成課の見習いのトルテーク達数人はリハルザムの機嫌が悪いのを察したのか、そっと顔をふせ、手元の作業に集中しているふりを始める。
ばんっと大きな音を立ててドアが開かれる。
先ほど協会長に怒られたのを思い出したのかビクッと反応するリハルザム。
「リハルザム師っ! 大変です!」とドアから現れたサバサが叫ぶ。
「……どうした、騒がしい」ドアの音に驚いてしまって一瞬怒りを忘れたリハルザムが聞き返す。
「先日納品した新型魔晶石がほとんど返品されてきてしまいました」
「何っ! 何かの間違いだろう!」
「いえでも──。あそこです」と指差すサバサ。
その指の先には無数の木箱が次々に配送業者によって廊下に積み上げられていっていた。
「サバサ! どういうことだこれは! 代金はどうなっているんだ!」
「わかりません……」と暗い表情で応えるサバサ。
「さっさと各卸し先に通信装置で確認しろ!」と叫ぶリハルザム。
「はい、ただいまやります!」とサバサは逃げるように部屋から出ていく。
「あの……」とリハルザムに話しかけるトルテーク。
「なんだ、トルテーク! 何か知っているのか!」
「知りません知りませんっ! この量、どこにしまいましょう? 捨てるわけにはいかないですよね……?」
「当たり前だ! 金蔓だぞ、これはっ! 適当な保管庫の古そうな物を捨てて、替わりにしまっておけ。俺も納品先に確認に行く!」とリハルザムも叫ぶも部屋を出ていってしまった。
残されたトルテーク達は顔を見合せる。
「どうする、これ」「仕方ないから、一番近くの保管庫を見に行こう」「しかし良いのかな。古そうだからって勝手に捨ててしまって?」「保管庫の管理は今は一応武具錬成課の管轄らしいからいいんじゃないか」と口々に相談しながら見習い達も部屋から出ていった。




