妄執の一席
巨大な輿のようなものが、海より現れた。何十体もの半魚人によって担がれた輿。
その上に、妄執の一席がいた。
千年ぶりに姿を表したそれは、伝説の通り、タコの姿をしていた。巨大な輿から溢れんばかりに、広がったその巨体。
そして何より特徴的なのは、その体のそこかしこから、人間の上半身が、いくつもいくつも生えているのだ。それも、頭部の無い上半身が。
その一つ一つが、妄執の塊なのだと、伝説は語っている。
──妄執の一席の登場で、あっちの準備も完了かな。じゃあ、あとは私だけか。
「さて、やりますか」
ぐっと一つ、伸びをして体をほぐすと、私はまず一つのスクロールを取り出す。
「『展開』『顕現』イブ『起きて』」
領都プタレスクの復興より優先するとのカリーンの判断で、私は、イブを連れてきていたのだ。
ドンッと地響きをたて、私の前にそびえ立つように現れたイブ。よっこいしょっと体を地面から引き抜いたところで、追加の特別な指示を伝える。
「『バックドア』起動。イブ『ジェネラルモード』」
私はそのまま、特製の魔素たっぷりポーションを取り出すと、次々にがぶ飲みし始める。
その間に、腕を上に伸ばしてタケノコの体を左右にゆさゆさと揺らしていたイブが、片手を握り、拳を作る。そして、自身のタケノコの真ん中あたりを、ドンっと一つ叩く。
私から、急激に魔素が消費されていく。スクロールを通して錬成獣たるイブへと供給されているのだ。私はそれに負けないようにポーションをあおる速度を上げる。
──ここら辺、イブの使える魔素のラインが無いんだよな。うっぷ、……なかなか、きつい。
体内の急激な魔素濃度の低下と、すぐさま訪れる回復。なんどもそれを繰り返し、やがて酩酊しているかのような状態になる。
しかし、ようやくそれも終わる。
「ふー」
安堵のため息をつく私の前で、再び自らのタケノコ部分を拳でドンッと叩くイブ。
次の瞬間だった。イブのタケノコの表皮がさざめくように反転する。
その反転した表皮が、まるで鎧のようになりながら、イブの全身をおおっていく。
あっという間に、全身鎧をまとった巨大なタケノコが一つ、そこに居た。
「イブ、分体──タケノコアーミーをありったけ。たのむ」
ジェネラルモードとなったイブが私の指示に応えて片手を掲げる。いつの間にかその手には、表皮が変化してできた指揮杖を持っていた。
イブが、その指揮杖を地面へと叩きつける。
大地が、タケノコに染まった。




