タウラの頬に浮かぶもの
閉じ行く、ツヴァイの逃げ出した穴へ向かって、煌めく物が投げ込まれる。
タウラの剣──呪剣ヒナゲシだ。
私の腹部を二度、貫き、タウラがツヴァイに拐われてしまう要因ともなった剣。
それがタウラの投擲によって、針の穴を通すかのような精度で投げ込まれる。
「ルスト、腹、刺さりました! 早く、私に呪術を!」
端的なタウラの叫び。
傷をおして肉体の限界を超えるように全力での投擲をしたのだろう。
タウラの体の調子は、いっけんして明らかに悪化している。
それでもうまく動かない様子の手足で、這いずるように近づいてくるタウラ。
私はそんなタウラの方へと駆け寄りながら先程の言葉を解釈する。
──刺さったというのはツヴァイだな。かつて浄光をまとっていた呪剣ヒナゲシならダメージはツヴァイへ与えられずとも一時的に刺さることは可能だろう。そして、その場所は腹。かつ、タウラに呪術をかけろと。
私はあと一歩でタウラに手が届く位置まで駆け寄ると右手の手袋を脱ぎ捨てる。
──そうか、共感呪術。タウラ。その提案、甘えさせてもらう。
「すまない」
腹這いの姿勢から、ぐいっと上半身を持ち上げ顔を私の方へと差し出すタウラ。
私は屈みながらその頬に右手で触れる。
タウラにかつて呪術師によって、かけられていた、位置を探知し術者に伝える呪術。
そのわずかな残滓から、私は呪術を再構成する。
はじめてのタウラにあったとき、その顔に刻まれていた呪術の痣が、再びタウラの顔に現れる。
その呪いが、共感呪術によって今現在、呪剣ヒナゲシに腹部を貫かれているツヴァイへと、移転するように意思を込め、私は呪いを口にする。その言葉の羅列が呪となり、ツヴァイを縛り上げるように願い乞いながら。
「『最愛の者の名をつけられし剣よ。汝は我が肉の記憶を二度味わいしものなり。その肉の記憶を通して命じるものなり。今まさに、そなたが穿ち者へとこの者の呪いを授けん』」
タウラの頬に浮かんだ呪いの痣が、その肌からふわりと浮かび上がったかと思うと、ちょうど閉じる空間の穴へとするすると滑り込んでいく。
次の瞬間だった。
私の頭のなかに不思議な感覚がうまれる。
──どうやら、ツヴァイは北に移動したようだな。これが、位置を知らせる呪い、か。
「タウラ! 成功だ。ありがとう!」
私の右手に頬をつけながら微笑むタウラ。そのまま崩れおちていく体を慌てて支えると、私は急いで治療のため、ポーションの準備を始めた。




