お薬を作ろう!!
私は息が切れる度に、手にしたポーションを口に含む。
──日頃の運動不足がたたるな。まあ、こんな事もあろうかと用意していたスタミナポーションだ。飲めばすぐに切れていた息も元通りに……。おっ、見えてきた!
十数メートル進む度にポーションを口に含むスローペースだったが、ようやく群生地が見えてくる。
「よし、ちゃんと薬草、残ってるな」
記憶にあるより少し薬草の生えている範囲が縮小している。どうやら誰かが定期的に採取に来ている様子。
私もその誰かの邪魔をするつもりはないので、手早く必要最小限だけ、薬草を採取していく。基礎となる体力回復効果のあるもの、傷の再生力を高めるもの。そして毒素を排出するもの。
もちろん、それらは草の状態では効果はほとんどないし、普通にポーションに錬成したところでそれはあまり変わらない。
そういう意味では倒れていた神官騎士の女性が自力で群生地にたどり着いていたとしても、多分助からなかっただろう。
しかし、私ならそんなことにはならないので。次に群生地の近くの湖へ近づいて行く。
「よし、水の確保も出来ると。先程見た彼女の状態だと、簡易錬成したもので良いだろう」
私は錬成の速度を優先することにする。
私は簡易錬成するときにいつも使うスクロール三本と、空のボトルを取り出す。
左手にボトルと薬草。右手の各指の隙間にスクロールを挟み込むようにして構える。
一つ深呼吸。
精神が凪ぐのを待ってから、呟く。
右手をゆっくりと薙ぐようにしながら。
「《展開》、《展開》、《展開》」
三本のスクロールが空中に固定され、くるくると広がる。
「《解放》重力のくびき《対象》認知対象物、五」
一つ目のスクロールを発動させる。
私の左手にあった薬草三種とボトル、そして目の前の湖の水が重力から解き放たれる。ふわふわと浮かび上がる薬草とボトル。特に水は球体状になって私の目の前でとどまる。
「《純化》」
二つ目のスクロールを発動する。
ちなみにこの純化は、いつも私が蒸留水を作成するときに使っている。蒸留するのがめんどくさくて、作ったスクロールだ。
実は、私の基礎研究の粋を集めた自信作だったりする。
通常の純水を超えた超純水。それをさらに超えた、完全なる純水を作成出来るのだ。それは概念としての水、そのものとなる。
まあ、ただスクロールを発動するのではなく、完全なる純水を作るのには、ちょっとしたコツがいるのだけれど。
と、私はいつものように追加で微細な魔力操作を施しながら、水を純化させる。
さすがに日に千本も作っていれば、あくびしながらでも出来る作業。
あっという間に完全なる純水が完成する。
次に私は一本目のスクロールに魔力で干渉し、薬草三種を完全なる純水の中へ投入する。
そこで純水へ追加で施していた魔力操作を止める。それは完全なる純水から一切の不純物を排除するために行っていたもの。
それが無くなった瞬間、完全なる純水は一気に薬草を侵食していく。どんなものであれ、高純度の液体は、物を溶かす力が上がって行く。それが自然の理に反して極限まで上げられた純水なら当然、相当な物になる。世界の均衡を保とうと、完全なる純水だった物は、薬草を破砕し、食い散らかし、バラバラにしていく。
目の前に浮かぶ水球が一気に緑色へと変わる。
「《純化》」
再び二つ目のスクロールを発動させる。対象は目の前の薬草と純水の混じりあった緑色の溶液。それを次はポーションとしての概念へと純化していく。
先程確認した、神官騎士の女性の状態に対応した配合へと、一気にポーションを作り上げていく。
目の前の水球から排除された不要物がバラパラと粉になって排出され、落下していく。
全ての不要物が排出された次の瞬間、緑色だった溶液が、輝かんばかりの金色へと変貌する。
「《定着》」
三本目のスクロールを発動。
出来上がった金色のポーションの存在を、この世界の中に固定させる。
最後に私はふわふわと浮かんだままだったボトルを左手に掴むと、目の前の金色に輝く球体の液体の下へ。
右手の人差し指でポーションの球体の一番下の部分に触れる。
「《解放》重力のくびき、限定解除」
つーと、水球のしたから金色の溶液が滴り始める。
それを左手のボトルで受け止めていく。
最後の一滴がボトルへ。私は急いで封を施す。
「ふう、久しぶりにポーションを作ったけど、まあまあかな。さあ、急いで戻りますか」




