エマージェンシーモード!
「けっこうけっこう。たいへん素晴らしい。用のあるもの達がみな、揃っているな。そこのアレイスラの犬に紐をつけといて、正解だったよ」
タウラのことを犬呼ばわりしながら、堂々とした足取りでこちらへと歩いてくるツヴァイ。
──どうやってここまで、こんな短時間でっ! いや、今はそんなことよりもっ!
私は焦る気持ちをおしころし、すぐさまその場でしゃがみこむと、イブの竹製の床に手をつく。
その姿勢で、イブへと告げる。
「『バックドア』起動。イブ『エマージェンシーモード』っ! 『最優先』私を除く全住人の緊急避難。『実行』っ」
一息に、早口で叫ぶ。
その変化は、劇的だった。
それぞれの武器を手に、ツヴァイの目前まで迫っていたカリーン、アーリ、タウラ。私の正面に回り込み、身を呈して私を守ろうとしてくれていたロア。
彼女たち全員の周りに、イブの竹が物凄い早さで生える。
人、一人がちょうどすっぽり入るサイズの太さと長さの竹だ。
カリーン達を包み込むようにして確保したイブの竹が次の瞬間、地面の下へと引っ込む。
指を鳴らそうと手をあげていたツヴァイも、さすがに驚いた表情を浮かべている。
──間に合った! あとはイブが、地下茎の延びている領都の端まで皆を避難させてくれるはず。
そして同じことが、この領都に住む住人達のほとんどに対して起きていた。
イブの建物以外に居る住人たちも存在する。しかし彼らに対しては、タケノコアーミーズが個別対応しているところだ。
しかし、これだけのイブの働きだ。
当然、代償も大きい。何よりもこのエマージェンシーモードは消費する魔素が甚大だった。
イブが大地を流れる魔素を吸い上げて維持してきた領都の建物が、反動で維持ができなくなってくる。
それは、今私たちがいるセイルークの住まいも、同様だった。
既に、ボロボロと壁や天井が崩れ始める。
「セイルーク! 上空に向かってブレス! そのまま、アンデッドドラゴンを連れて飛んで逃げろ!」
緊急避難の対象が私以外の人、と言うこともあり、その場に残されていたセイルーク。
セイルークサイズの存在を、同じ方法で緊急避難させる余裕がないほど、イブの保有魔素がぎりぎりだったという事情もある。
そういう訳で残されていたセイルークは、私の指示に素直に従って、上空に向かってドラゴンブレスをはいてくれる。
落ちてきた天井が、そのブレスによって跡形もなく消し飛ぶ。
しかし、セイルーク自身が逃げる様子は、ない。
かわりに再びドラゴンブレスを放とうと魔素が、その口元へと収束していく。
狙いは、ツヴァイだろう。
「やれやれ。せっかく揃っていたのに。ルスト=シュトルナ=ハーツニクス君。めんどくさいことをするね、君は」
セイルークの今まさに放たれようとするドラゴンブレスなど意に介した風もないツヴァイ。そのまま、ツヴァイは両手の指をパチンと同時に鳴らす。
斥力場の攻撃が来るかと私は思わず身構える。しかし、両手で鳴らされたそれは、全く別の事象を生じさせていた。
ツヴァイの横の空間に、穴が空いたのだ。
サイズといい見た目といい、まるで不義の三席の洞窟からツヴァイのいた世界へ繋がった穴のようだ。
その穴にツヴァイが片手を突っ込む。
ごそごそと空間の穴の先にある、何かを探る様子のツヴァイ。
そこに、セイルークの放ったドラゴンブレスが到達した。




