魔導具を見てみよう!!
私はロアの魔導具の布を慎重に広げる。すると、ローズが気を利かせてくれたのか、ぐにぐにと私の目の前の床が盛り上がりはじめる。新しく作業台を作ってくれたようだ。そっと作業台に魔導具の布を置く。
さらにローズは、元の作業台にあった魔素テスターに蔦をぐるぐるに巻き付け、運んできてくれる。これは検査用に微弱な魔素を送り出す為の装置だ。
私はローズの蔦へ、ぽんぽんと軽く叩いてお礼の気持ちを伝える。ぐにぐにとそれに応えてくれるローズ。しかしすぐに床の一部へ引っ込んでしまう。
──相変わらず控えめだな、ローズは。
そんなことを考えながら、セットされている魔石の状態を確認する。
──うん、問題なし、と。さて、魔素の供給元だけど、ここかな。
私はそっと手のひらで布を撫でる。そして布の中央、一つ目の模様が描かれている部分に、魔素テスターのコードを取り付ける。そこは布を被った時にちょうど眉間の真ん中にくる部分。顔につけるタイプの魔導具の魔素供給点としては、定番の場所だ。
用意していたペンデュラムを左手につける。こちらは風土病の調査で魔素の検査をしたときに使ったものと同じものだ。右手でテスターを操作しながら、ペンデュラムの先端の四角錐が布につかないギリギリの高さで、左手をゆっくりと布の上を移動させていく。
──この魔導具、構造はかなりシンプルだな。ここがバッファーで、ここで増幅か。ノイズキャンセルはこちらね。ふーむ。いやこれ、ほとんど意味、無くないか? 機能的にはかなり改善の余地があるよな。確かに作りは非常に丁寧だし、中に込められた魔導回路も良い溶液を使って焼き付けられているけど。
私はあっという間に検査が終わってしまって、どうしようか悩んでしまう。
どうもこの魔導具を作った錬金術師は良くて二流、といった腕前のようだ。私の手持ちの魔導回路を複数組み合わせるだけでも、上位互換程度の機能の魔導具なら、すぐに作れそうだ。
──それでも、これだけ丁寧な仕事をしているんだ。そこにはロアへの愛情すら感じられる。制作者はアーリ達姉妹の親しい人間だったのかな。
私は一瞬、わかったことをどこまで伝えるべきか悩む。ちらりと後ろを見ると、ロアはすでに落ち着いた様子。そこで、私はふと気がつく。
──そうか。もしかしたら心理的な要素が強いのか。実際の機能以上に、この魔導具がロアに与えている安心感が、異能の制御に効果を発揮している可能性。うん、ありそうだ。
よいしょっと私は二人に向き直る。
「さて、次はロアの方を診察させて貰ってもいいかな。アーリ。またこの魔導具をロアに着けてあげて貰える?」と私は検査の終わった魔導具をアーリに手渡す。
再び顔を布で隠したロア。
「《封印解除》」私はスクロールの発動を止める。
ロアの顔から外した封印のスクロールを、アーリが私に渡してくる。
私は手元のスクロールを見て、アーリへちらりと視線をやる。
それは気まぐれと言われてしまえばその通りなのだが、何となくそうしたいと思ってしまったのだ。
「ロア、手を貸して」私はロアに呼び掛ける。
「うん」
差し出されたロアの手に私はアーリから手渡されたスクロールを乗せ、上から自らの手を包み込むようにして被せる。
「《共通プロトコル発動》管理者権限発動《譲渡》ルスト《対象》ロア。《権限委譲》封印のスクロール。《プロトコル終了》」
私は手をどけると、ロアに告げる。
「そのスクロール、いくつかあるから良かったらあげるよ」
無言のロア。
急に、俯いてしまう。
──あ、ヤバいか、これ……
「ありがとう」とロアの声。その小さな小さな呟き。それでも、しっかりと私の耳まで届くものだった。




