戦いでしかわからないもの
「ここから、人の領域を外れます」
南方はいくつもの小国がひしめき合う連合国家となっている。
幸いなことに高度をあげてセイルークにのったままそれらの国を飛び過ぎることが出来たが、これは地上を進んでいたら手間だっただろう。
前に訪れた東方のソトトも山がちな国だったが、湿潤なあの国に比べると、こちらは空気がかなりからっとしている。
そして何より山の高さが段違いだった。
「あそこに見える山の頂上。そのさらに先が、『空の果て』といわれています」
アーリが指差した先。そこには巨大な山脈があった。そのなかでもひときわ大きく、偉容すら感じさせる山へと向かっていく。
「大きいね。そういや、そろそろ飛行系のモンスターが増える?」
私は斜め前方からこちらへと飛んでくる影を見ながら、アーリにたずねる。
「まず、間違いなく。──すいません、お役に立てず」
アーリが何に謝っているのか一瞬わからず、しかしすぐに未来視の魔眼の力を奪われた事を言っているのだと、気がつく。
「こちらこそ無神経だった、すまない。それと、役に立てないかどうかなんて、これからいくらでも変えられるさ」
私の言葉にきょとんとした様子のアーリ。どうやら説明不足だったようだ
「あー。……えっと、あの敵だけど私が《束縛》のスクロールで打ち落としていくから、取りこぼしをお願い出来るかな」
「はい。一体たりともルスト師には触れさせません」
きゅっと槍を握りしめ、反対の手で空中で何か操作する仕草をするアーリ。
私もスクロールを複数、同時展開させると、セイルークの周囲に旋回させる。
そこへ、敵が突っ込んできた。
◆◇
結果は圧倒的だった。
──これはアーリだけでも十分過ぎる……。
未来視の魔眼を失ってなお、アーリの力は素晴らしい物だった。
何より、もともと戦闘のセンスが良いのだろう。
アーリ自身の持つ命のやり取りにおける生来の勘の良さ、のようなものがまさに開花していくようだ。
──いや、それだけじゃないのか。これまで未来視の魔眼があったことで、逆にそのビジョンが戦闘時における状況把握を邪魔していたと見るべきか。そりゃそうだよな、特に私の魔導具をかける前なんて、アーリは戦いながら無数の未来の映像を、半ば強制的に見させられてきたんだもんな。
私がそんな事を考えている間にも、アーリはちらりとも確認せずに自分の斜め後ろへと槍を繰り出す。
穂先にまとった赤い光が真っ直ぐに伸び、私のスクロールの制空範囲を越えた背後から強襲してきた敵を貫く。
──それにあの赤い光。スキルを見せてもらったときにも感じたけど伸縮性をもっていて、物理的衝撃を伴っているよな。浄光とまるで対になる力にすら見える……
私が暇すぎてのんびり考え事をしている間に、無数にいたように見えた敵がすべて片付けられていた。
戦闘の前に比べて、アーリの顔もどこかすっきりとしているようにすら見える。
「アーリは十分役に立ってるよ。どちらかと言えば私の方が何も出来なかったよ。さくさくっとアーリが倒してくれたからー」
「……ありがとうございます」
私が冗談めかしてそう告げると、アーリも僅かにだが、笑って答えてくれる。
それは私が見たアーリの久しぶりの笑顔だった。
カルザート王が殺されてから初めてかもしれない、アーリの笑顔。
私はその笑顔を曇らせたくなくて、次に聞こうとしていた質問を、思わず飲み込んでしまった。
アーリはプレイヤーの子孫なの? という、質問を。




