空の上、アーリの負った傷
カリーンからの条件、それはアーリを同行させるように、という物だった。
セイルークに乗り王都へと乗り付けた私はその場でアーリと合流。今は二人でセイルークの背に乗り、ひたすら南に向かって飛び続けていた。
「アーリ」
「何ですか、ルスト師」
私は前に乗ったアーリの名を呼ぶ。
体を捻りこちらを振り向いたアーリ。その顔には眼鏡型の魔導具がない。
未来視の力を奪われた事もあって、外しているのだろうか。
見慣れた眼鏡をしていないアーリは、その思い詰めたような表情も相まって、どこか別人のようだった。
「いや、その。──手の怪我はどうなったかなと思ってさ」
「……戦うには支障ありません」
そう言って、しばしためらった末に、右手をこちらへと示すアーリ。
ここでちゃんと手を見せてくるのはアーリらしい真面目さのゆえの行動だろう。
──これから魔族と事を構えるから、私が戦力を把握できるよう傷の状態は見せなきゃってとこかな。ただ、先日の件は心情的に、やはり自分の中で消化しきれてない感じ?
「──確認しても?」
一つずつ、アーリの心の内を確めるように、私は質問を重ねていく。カリーンがわざわざ万全でない状態のアーリを指名してきたのだ。私に期待されているのは、要はそういう事だろう。
無言でうなずくアーリ。
私はアーリの手を取ると、傷の様子を確認していく。
手のひらの親指と人差し指の間から始まって前腕の中程までもある切り傷。少しひきつれてはいたが、確かに傷自体はしっかり塞がっている。
──本当は《転写》のスクロールを使えば内部の筋肉含め、傷の状態把握は一発なんだけど。でもそれはまた顔を赤くして怒られそうだしな……
「握力も、問題無い?」
私の質問に、そっと視線を泳がすアーリ。
眼鏡も面布もしていないので、その瞳の揺れがはっきりとわかる。
「戦うには、支障ありません」
同じフレーズを繰り返すアーリ。私はじっとそのアーリの表情を注視する。
──アーリって思ってたより表情に色々出やすいのかな。どうやら握力は落ちているんだろうね。戦えるってアーリが言うのであればカバー出来る範囲なんだろうけど。
「わかった。ありがとう」
そう言ってアーリの手を離す。
明らかにホッとした表情がこぼれるアーリ。
その表情を隠すように前を向くと、周囲の警戒を始めるアーリ。
飛び続けることしばし。空の上の他愛もない会話として、私はアーリに再び話を振ってみる。
「そういえば、カリーンからは今回の事はどこまで聞いてる?」
「魔族『最弱の七席』との戦闘を視野に、ルスト師を守れと。そして『空の果てへ』と案内するようにとも」
前を向いたまま答えるアーリ。
「確実に戦闘になるとは限らないけどね。最初は少なくとも交渉から入るつもり。というか、場所、詳しいの?」
空の魔族がいる場所として『空の果て』というのは、名称としては比較的有名だった。
──そうはいっても、具体的な場所は現地についてから調査になると覚悟していたんだけど。
「生まれ故郷なので」
「あー。そうなんだ。てっきりアーリとロアは西方の出身かと思ってたよ」
「……確かに私たちの母は西方から流れて来たと、両親が亡くなる前に聞いたことがあります。良くお分かりですね」
私はさりげなく聞こえるように気をつけながら、初めてアーリたちと会ったときに思ったことを伝える。
「西方の民に魔眼が発現しやすい種族がいると、聞いた事があってね」
「──それは知りませんでした」
ピクッと、アーリの肩が僅かに震えたのが、見えた気がした。
本日はコミカライズ第11話②の更新日です!
タウラが再び野営地に訪れるところとなります。
ぐんたお様の描く、華麗なタウラの様子がご覧頂けます!




