限界なのじゃー!
セイルークの、真っ白な光をまとった口さき。まるでキスのように、その口が黒い糸へと触れる。
セイルークの頭の上に仁王立ちになっていたミニチュアサイズの幼女たるアンデッドドラゴンが、いつの間にか膝をついている。
これまでの言動からは想像も出来ない真摯な表情で頭を垂れ、まるで祈るようなポーズをとるアンデッドドラゴン。
私は何度か仕草を見たことがあった。タウラや、アクター・カヘロネーが時おり見せる祈りの姿。それと良く似ていた。
──どういうことだ? あれは女神アレイスラへの祈りのはず……どうして?
私の疑問を余所に、そこからの変化は急激だった。
セイルークたちを覆っていた白い光が全て黒い糸へ吸い込まれるように移ったかと思うと、巻かれた糸の隙間から、光が溢れる。
そして、勝手に糸が動き始める。
まるで目に見えない編み手と、透明な織り機がそこにあるかのようだった。
勝手に動き出した黒い糸が、自動で何かの形へと織られていく。
「あれは、布、です……?」
ポカンとした表情をさらしたシェルルールが、呟く。
「うん。しかも、ただの布じゃなさそう。たぶん、マントじゃないかな?」
私はなんとなくリリー陛下の戴冠の時の様子を思い出しながらシェルルールの呟きに答える。
その時だった。急に光が消える。
糸の動きが、止まる。
スクロールにまだ半分は糸が残ったまま。編み上げられていたマントらしきものも、明らかに途中だ。
「え……?」
シェルルールの、これで終りなのという疑問が聞こえてきそうな声。それに共感しつつ、二人してアンデッドドラゴンの方を向く。
「限界なのじゃー……」
セイルークの上で、ぐてっとしたアンデッドドラゴン。
「……それは、続きをするなら、追加の腕肉が食べたいということか?」
私は警戒しつつもどこか諦めの混じった気持ちで問う。
「それは、とってもとっても魅力的なお誘いなのじゃが、契約者殿のお肉じゃだめなのじゃー」
ぐたっとしたまま、涎だけ垂らしてそんなことを言うアンデッドドラゴン。何だかんだで食欲が駄々漏れだった。
「もしかして、別の人間? いや、それはダメだぞ! 許可できない!」
私はなんとなくシェルルールの方をちらっと見てから答える。
「人間かは微妙なとこだの。最弱の七席の肉が、いるのじゃ……」
話すのも億劫な様子を見せるアンデッドドラゴン。
「最弱の七席? 空の果てにいると言われている魔族ですか?」
「そうなのじゃー。シェルルールちゃん。アンちゃんを殺った奴がそいつの親玉での。そいつのお肉があれば、アンちゃんは完全復活なのじゃ」
私は蜂みたいな姿をした敵を思い出す。
「アンさんのその状態は毒か呪いのような物が原因なのか? 前に《転写》のスクロールで調べた時は何もそれらしきものは……」
「れ、錬金術じゃ無理なのじゃー。アンちゃんはアンデッドでの。ことは、《想い》によって働く原初魔術の領分──」
いよいよ力が尽きた様子のアンデッドドラゴン。次の瞬間、その幼女の姿がほどけるようにして、骨で出来たドラゴンの姿へと変化する。
「──寝ちゃってます?」
セイルークの頭の上からそっとアンデッドドラゴンを受け取り、覗き込むシェルルール。
──原初魔術が、《想い》によって働く? なんだかまるで感情が全て、といっているようだな。負の感情を消費する呪術に、どこか似たものを感じさせる言い方だけど。というか、自分を傷付けた相手の親玉の肉が食べると元気になるって……
私はため息をつくと、編みかけの物を含め黒い糸をいったんしまう。
「ルスト師、最弱の七席を倒しに行かれるのですか?」
少し心配そうな様子のシェルルール。
「まあ、とりあえずカリーンに相談かな。そうなったらカゲロ機関の方はまた少し、シェルルールたちに任せてしまうことになるかもだけど」
「そこはもちろん、どんとお任せ下さいです~」
「うん。頼りにしてるよ」
どんと胸を叩いて満面の笑みを浮かべるシェルルールに、私も意識して笑って答えるのだった。
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