部門長として初仕事をしよう!!
カリーンからの錬金術部門の部門長の任命の件の説明を受けた。
とは言っても、やらないといけないことは、これまでとあまり変わらなそうだ。
錬金術を使って領内の解決できそうな問題に取り組むこと。魔晶石の錬成。
そして待望の基礎研究も行う許可が出た。
予算については、カリーンに稟議を通さないといけない項目について、説明された。良識の範囲内であれば、ほぼ自由に予算は使えそうだ。何故か「ルストの良識を私は信じているからな。それと使用用途は、ちゃんと経理担当に報告するように」とカリーンに念をおされたが。
そして、一つ、早速仕事を言い渡された。
「錬金術部門だが、ゆくゆくは人員を増やして、独立した組織にしていくつもりでいてくれ。そんなわけで、組織の名前を考えておくように」とのカリーンのお達しだった。
──組織の名前か。錬金術協会と似てる名前は嫌だな。そもそも向こうは国直轄の組織だしな。ここ、アドミラル領の特徴のある名前にするか。もしくは、自分の錬金術に絡めたものにするか。うーん。
悩みながら、自分の天幕へ向かって歩く。
──すぐには決められないや。急ぐことはないし、今できることをしよう。
そうして私は正式に錬金術部門の部門長としての初仕事に取りかかろうと、自分の天幕で準備を進めていた。
「ルスト師、入りますよ」とそこへアーリの声。
天幕にアーリとロアが入ってくる。
二人にはアーリからの相談の件で診察をしたいから天幕に来てほしいと、使いを出しておいたのだ。
キョロキョロとした様子のロア。そういえば、風土病の治療で患者を連れて来てくれた時も、私の天幕の中でよくキョロキョロしていた気がする。
今にして思えば、透視の魔眼でローズを見ていたのだろう。天幕の中を複雑に絡み合いながら完全に覆っているローズの蔦の様子は、透視で見たら興味深そうだ。
私は二人に椅子を勧める。
私の声に反応して、にょきにょきとローズの蔦が盛り上がり、二人の座る場所ができあがる。やはりロアは興味深そうだ。
二人が座るのを待って、声をかける。
「それでは二人の魔眼の魔素の流れと、制御しているそちらの布の魔導具の機能を調べさせてもらいたいと思います」
「わかりました」「うん」
「まずはこの封印のスクロールを目に巻いてもらいます。これは完全に魔眼の働きを封じる物になります。その間に、今つけている布の魔導具の機能を簡単に調べさせてもらおうかと思います」と私は手のひらサイズのスクロールを二人に見せながら説明を始める。幅がちょうど目を隠すぐらいの大きさだ。
「どちらから、ですか?」とアーリ。
「ロアからにしましょう。お話を聞いた限りではアーリ、貴女の魔眼の方が体への負担が大きそうだ。常時着けてあるであろうその布の魔導具を外すリスクも、アーリの方が大きいでしょう?」
「それでいい」とロアが、アーリを遮って答える。
「ロア……。わかりました。よろしくお願いいたします」
「では、これをロアの目にかかる様にして顔に巻いてあげて下さい」と私は封印のスクロールをアーリに手渡す。
慎重な手つきで私から受けとるアーリ。
「ロア、始めますよ」「うん」
アーリはゆっくりとスクロールを広げると、ロアの顔を隠す布の中へと、広げたスクロールを入れる。
自分でも手を差し入れるロア。二人で協力してスクロールをロアの顔に巻き付けていく。
「出来ました」とアーリ。
「わかりました。始めますね。《封印》」
スクロールに、魔素の光が走る。
するすると音を立て、ロアの目にピタリと張り付く封印のスクロール。
「もう、押さえていた手を離して大丈夫ですよ。どうですか、ロア」
しばしの沈黙。
「……何も見えない。真っ暗」と小声で呟くロア。
「スクロールはちゃんと機能してるみたいですね。それではアーリ。ロアの魔導具を外して下さい」
ゆっくり外される布。スクロールに目の部分だけ隠されたロアの顔が見えてくる。
しっかり巻かれているか確認しようとして、気がついてしまう。巻かれたスクロールのふちに、二ヶ所、染みがあることに。そこから、ロアの頬へと流れていく、透明のしずくが一筋。
「ロアっ!」とアーリの心配そうな声。
「──何も見なくてもいいって。皆はこんな感じなんだね、アーリ姉様」
アーリの息を飲む音が聞こえるようだ。
私がどうしようか迷っていると、アーリは無言でロアへと腕をまわし、ロアを優しく抱き締める。アーリの服をぎゅっと握るロアの手。
私はなんとなく二人の邪魔をしちゃ悪いかと、背中を向ける。
時間潰しに、手渡されていたロアの魔導具を早速、調べ始めることにした。




