過去の記憶
「ルスト。前へ」
「はい……」
講堂に小さく響く、幼い子供の声。
──これは、孤児院で受けた魔素測定検査? あれ、さっきまで竜泉石をとりに来ていたよな。ああ、子供の時の記憶か。
テーブルの上に置かれた魔導具。
そっと背中に当てられた手におされて、おずおずと机の前まで歩いていく幼い自分。
「そこに手のひらを上にしておきなさい」
「わかりました」
──魔導回路、いま見るとだいぶ簡略なものだな。これじゃあ本当に大雑把にしか測定出来ないだろうに。それに検査に来ていた人も思ってたのより若い。こうやってみると、新人の錬金術師だったのか。
子供の自分の手のひらの上に、ペンデュラム・ダウンジングを垂らして測定を始める新人の錬金術師。当時は大きくて権威的に感じていたその人は、今の大人の私から見ると、たぶん、なりたての錬金術師だった。
ぼそぼそと喋りながら新人の錬金術師が測定の準備を進める。
あの当時はその聞き取れない事を喋っている様子も、どこか恐ろしげに思えたのだが、どうやらただ手間取っているだけだった。
そうやって準備を進めていた次の瞬間、ペンデュラム・ダウンジングが激しく躍動する。
「これはっ! すごい!」
驚きの声をあげる新人の錬金術師。
その声に驚き、びくっとなって背後を振り返る幼き自分。
視線の先には付き添いの孤児院の老先生の驚き顔。しかしその表情に、負の要素が浮かんでいなかったことにほっとする自分がいた。
──この検査のお陰で、魔素操作の才能の片鱗を認められたんだったっけ。で、奨学金をもらって孤児院から出ることが出来たんだよな。
そこで、場面が変わる。
次に見えたのは、学院の風景。
卒業を間近に控えた頃だろう。
体もすっかり成長し、目線が今と変わらない。
──もしかして、死の直前に生きている間の記憶が見えるとか言う例のあれか、これって? えっ、孤児院出たあと、ここまで飛ぶの? まあ、確かに勉強ばかりしていて、大した思い出はないけど……
「よう、ルスト」
「ああ。カリーンか」
声をかけてきたのは今より少し若いカリーンだった。
「ルストは、やはり錬金術協会に入るのか」
「ああ。協会長のハルハマー師は素晴らしい錬金術師だしね。やはり国の最高機関だけあって、設備も最新なんだ。あそこなら、私の研究したいことも出来るかもと思ってる」
「ふむ。『人体と他生物における魔素の影響の相違』だったか」
「そう。よく覚えていたね、カリーン」
「ふふ。相手を口説き落とす時は情報が大事だからな」
「何度も誘ってくれたのに、すまんね」
「いやいや、気にしないでくれ。私がお前の事を気に入って、一方的に誘っているだけだからな。私はルストとなら、この国だってとれると思っているぞ」
自信満々にそんなことを言うカリーン。
「ははは。恐縮です」
「しかしそうか、残念だ。ルストには一緒に来てほしかったよ。学院所属の身で、既に錬金術師の資格を得た『学院の英俊』なら軍でも大活躍、間違いなしだと思うんだが」
「そのあだ名はやめてくれって。カリーンは軍で手柄を立てて騎士を目指すのか?」
「ああ。戦争の噂は、ルストも聞いているだろう? これから一番出世の早道は、軍なのは間違いないからな」
「そうか。気をつけろよ。といっても無駄か」
「そんなことはないぞ? 心配、ありがとう。とりあえず今はお互いの道は別れてしまうな、ルスト」
「ああ、カリーンも軍では壮健で」
「おうよ。とはいえ、また折を見ていつでも誘うからなー」
「りょーかい」
──そうか。そういえばカリーンの奴、そんなことを言ってたな。それでか。
その時だった。胸に強い痛みが走る。
衝撃で私の意識が一気に覚醒する。
気がつけば私は陸の上にいた。
肩の軽い痛みと、胸の強い痛み。そして、仰向けに寝かされている。
激しく咳き込みながら見上げると、ヒポポが真横にいる。どうやら私の胸を圧迫していた足のうらを、胸の上から退けるところのようだった。
書籍二巻が6月24日に発売となります。
そしてコミックス二巻も6月23日に発売されます!
それぞれの書影が公開&予約開始されたので、ページの下に掲載しています。是非ともご覧になってみて下さい。
書籍二巻の表紙は今回も又市マタロー様のイラストです。旅路でお茶をしてくつろぐルスト達を描いて頂きました。とても華やかで、楽しそうです。
コミックス二巻のぐんたお様の表紙は各キャラの特徴、性格がよく出ているなあと感じました。
そして何より、タウラの髪が凄いことに!?




