アクター・カヘロネーの悩み
「ああ。カヘロネーも打ち合わせは抜け出してきたの?」
「私は誰かさんと違ってそんなことはしません。打ち合わせは先ほど終わりましたよ。そろそろ準備なので、呼びに来ました。──それに、あれからお話しできていませんでしたから」
そういってくすくすと笑うアクター・カヘロネー。
言われてみれば確かに真面目そうな彼女なら、抜け出したりはしないだろう。
私は少し視線をそらして、セイルークにまたあとでねと鼻先をとんとんと叩く。一呼吸おいてから、アクター・カヘロネーの方を振り向く。
「騎士カリーン殿を含めて皆様、衣装の最終の確認に入られますよ」
そういって私の全身、上から下へゆっくりと視線を動かしていくカヘロネー。
私も不本意ながら、いつもより豪華で高そうな雰囲気の服を着ていた。
「ここ、毛羽立ってますね」
そういって、すっと手を伸ばすと、私の衣装の一部を優しげな手つきで撫で付けるカヘロネー。
「え、ああ。さっきセイルークにポーションをあげるときかな。ありがとう、もう大丈夫っ」
私が慌ててお礼をいうと、こてんを首を傾げるカヘロネー。しかしその視線は相変わらず私の服装をチェックしているようだ。
「ではこのボタンの曇りはセイルーク様の鼻息ですね。さあ、行きましょう。服飾担当の儀典官の方達がお待ちですから、磨いてもらいましょう」
「……はい。あ、ロアにも伝えないと……」
「ロア殿でしたら先ほどすでにお声がけされていて、お連れされてますから」
にっこりと笑って伝えるカヘロネー。
私には何故かそのカヘロネーの台詞が、捕獲されて連行済み、と聞こえて仕方なかった。
「あ、そういえばアロマカズラはちゃんと言うこときいたかな」
連れだって歩きながら、私は話題を変えるべきだなと思って、蘇りし者を捕獲したときの事をたずねる。
「ええ、とても素敵な錬成獣ですね、アロマカズラさん。あんな気遣いのできる錬成獣さんは初めてでした。ルストの調練は素晴らしいですね」
「いや、そんな事はないよ。まあ、かなり知能は高いんだけど、それも生まれつきなので」
「なるほど。ではルストが素晴らしい錬成獣としてお作りになった、という訳ですね」
「うーん、そうなるのかな? まあ、称賛自体はアロマカズラに譲らせて下さい。アロマカズラにカヘロネーが誉めてたよと、あとで伝えておくから」
私も照れながらも、自分の錬成獣が誉められるのは素直に嬉しい。
そんな事を話していると、ポツリとカヘロネーがこぼす。
「そういえば今日は、捕まえた蘇りし者の処刑も行われるんですよね」
「……そう、みたいだね。でも何せ、カルザート王の命を奪った者の一人ですし」
「ええ、そうですね。すいません、こんな事言ってしまって。忘れて下さい」
そういってにっこりと微笑むカヘロネー。しかしその笑みは先ほどまでのとはどこか違っていた。
──カヘロネーから見ると、形は違えど、蘇りし者たちも加護を使う同じアクターってことだもんな。複雑な感情を抱くのも仕方ないだろうけど……
結局蘇りし者達五人のうち捕まえたのは、一人だけだった。
ガーンはロアの槍で止めを刺されて、結局ポイントとカルザート王の亡骸を奪って消えてしまった。
執事に擬態していた人物はカリーンが勢い余ってバラバラにしてしまったらしい。
商会の初老のご婦人といった風情の蘇りし者もカリーンが倒している。
村娘の格好をしていた虫を操っていた蘇りし者はアーリに倒されている。
──こうやって考えるとカリーン、大活躍だよな。道理で機嫌が良いわけだ。
会話が途切れたまま、私たちは儀典官の待つ部屋へと到着した。




