ゆっくりと流れる時間
もう、目の前に迫る槍の穂先。
それは正確に私の右目を貫くコースをとっているようだ。
そこで急に、世界が、時間の流れが、ゆっくりになる。
──いや、これは私の思考が加速しているのかな? 命の危機になるとかでこうなることがあるって聞いた覚えがあるけど、それかな?
ゆっくりと流れ始めた世界のなかで、私は自分でも意外なほど冷静に、そんな事を考えていた。
──これはもう、回避は間に合わないなぁ。首を動かすのすら難しいぐらいだ。とはいえ、視線をそらすのも負けたみたいで癪だし。
ゆっくりと大きくなっていくように見える槍の穂先。徐々に近づいて来ている証左だろう。
──ガーンは、槍の影から出てきたように見えた。さっき、一瞬だけ階段に入った瞬間にアーリの槍が浄光の光をまとったように見えたのは見間違いじゃなかったんだろうな。
私は回避をあきらめて、そんな事を考え始める。
──タイミング的には、穴に落ちた時だろうな。穴の底で影の状態でガーンが待っていたんだろう。最初から、ボックスのあるここを狙ってたとしたら上手く利用されたって訳か。うん? いや、そうでもないか。敵はリリー殿下を落とそうとしてたってアーリが言っていたな。
少しは妨害出来ていたのかも、と推測を重ねる。
──しかし影になる加護か。中々厄介だ。アーリとロアに対処できるかな。無理せず、二人だけでも逃げてほしいけど。逃げないだろうなぁ。二人とも
そこで自然と私の視線が二人の方へ向く。
──ああ。ダメだ。それは、いけない。
視線を動かした事で気がついてしまう。
私の隣にいたカルザート王がこちらへと手を伸ばし、私を突き飛ばそうとしている事に。
そこで、一気に時間の流れが元に戻る。
横からの衝撃。そして私が今までいたその場所には倒れ込むようにしてカルザート王の姿が。
そこへと槍が。
アーリの槍が、ガーンの手によってカルザート王の体を貫く。
「お父様っ!!」
リリー殿下の悲鳴が響く。
槍を手放したガーンがその勢いのままにボックスへと手を伸ばした。




