side カリーン 5
確かな手応え。
空間が、裂ける。
──どうやら、大正解だなっ
その時だった、剣先に何か別なものが引っ掛かる感触がある。
私はそのまま、それも力任せに断ち切る。
切り裂かれた空間の、その向こう側。そこにちょうど巨大なゲンゴロウに乗った敵の女性もいたようだ。
私の剣でまっぷたつになって、左右へ倒れていく巨大ゲンゴロウ。その上の敵の女性も、傷をおい、倒れ伏している。
その時には、すっかり周囲はもとの空間に戻っていた。背後には山になったままのヒポポブラザーズ達とリリー殿下の気配もある。大量の虫達は相変わらず王城を取り囲んでいるようだ。
私は剣を構えたまま、警戒を怠ることなくゆっくりと敵の女性に近づくと、見下ろす。
──もう、これは助からないな。
冷静に敵を見下ろしながら観察する。私にとっては戦場で幾度も見てきた光景だ。
「何か、言い残す事はあるか?」
私は剣を突き付け問う。こちらを見つめる瞳はすでに焦点があっていない。
「……その剣、この世界のものじゃないね」
敵が嗄れた声で尋ねてきたのは私の剣の事だった。
「ん、これか。ルストがお土産でくれた隕鉄製だ」
「はっ。道理で、加護を切れるわけだ。あの馬鹿な呪術師が堕としたものか。全く余計な事を……」
そこで黙りこむ敵。しかしそれでも、敵はゆっくりと両手を持ち上げようとする。しかし打ちならす前に、ばたりと再び両手は地面へ。
「力尽きた、か。最後まで抗うその姿勢。敵ながら、立派」
私は愛剣を引き戻すと眼前に構え、その闘争心に敬意を示す。
その時だった。王城を取り囲んでいた虫達が、なぜか溶けるように消えていくのが、遠目に見える。
「ルストとロアか? いや、意外とアーリかもな。どうやら虫を使っていた蘇りし者を倒したんだろうな。さて、この隙に大仕事を片付けてしまうか──」
私はそう呟くと、くるりと身を翻す。そして、山になったヒポポブラザーズ達のほうへと向かった。
どうやらヒポポブラザーズのうち二匹は自力でひっくり返った状態から復帰し、山積みされた仲間から離れられたようだ。
周囲で他の兄弟達を立たせてあげようと、わちゃわちゃ頑張っている。
私は愛剣を石畳に突き立てると、両手を腰に当てながらその様子を眺める。
──数時間は経ったと思ったが……。どうやらさっきまで私のいた場所、空間と一緒に時間も歪んでいたみたいだな。どれ。
私はヒポポブラザーズ達が絡み合い、積み重なって出来た山に、ひょいひょいっと登っていく。
てっぺんには、ひっくり返り、さらには足が絡んでいるのか、うまく立てない様子の二匹。
その二匹のヒポポブラザーズをそれぞれ片手で持ち上げ引き離す。
「下のお前達。こいつらをそっちに投げ渡しても大丈夫かっ?」
私は山の下にいるヒポポブラザーズに声をかける。
「ぶ、ぶもっ!?」「ぶもぶもーっ!」
投げられるの、僕たち。という目でこちらを見てくる両手のヒポポブラザーズ達の、つぶらな瞳。
「ぶもー……」「ぶもぶも……」
下にいる二匹も、あまり大丈夫ではなさそうだ。
「仕方ない。投げて怪我をさせたとばれると、ルストに怒られそうだしな」
私はあきらめて、両手に持った状態でヒポポブラザーズ達の山を降りていく。
両手のヒポポブラザーズ達の重さ自体は大したことがないが、鎧を着ていないので自重が足りていない。その分、慣性で振り回されないように慎重に降りる必要がある。
足場も、当然悪い。
ぶっちゃけ、めんどくさい。
何とか無事に地面に降りると、よいしょっと手にもったヒポポブラザーズ二匹を下ろす。
「ぶもー」「ぶもー」
たぶん、感謝されているのだろう。
私は次の子を下ろすかと、再びヒポポブラザーズ達の山へと登っていった。
途中、自力で離脱した子もあり、ようやくリリー殿下まで山から救出することに成功する。
「あとはひっくり返っている子を立たせるだけだが……」
重なりあっているのが解消されて、あとはひっくり返っていて起き上がれないヒポポブラザーズ達が残っているだけだ。しかしそれは、どうやら先に助けた子達が総出でやってくれている。
私は意外と時間がかかったなと額を軽く拭うと、リリー殿下と共に隊列が整うのを待つ。
「よし。準備は良さそうだな。いざ、王城へっ!」
再び騎乗した私とリリー殿下を先頭にして、私たちは王城へと進んでいった。




