商機は積極的に掴みにいこう!!
カリーンに挨拶がしたいというタウラを送って行った後、私は野営地の広場に来ていた。
カリーンからは、トマ村のザーレ達やタウラの歓迎に皆で食事をするからと誘われたが、遠慮させて貰った。
ザーレ達は翌日には、ここを出発するらしく。それまでに済ませておきたかったのだ。
カゲロの実の魔晶石への錬成を。
──今が商機な気がしてならないんだよね。急いでやっておく価値はあるはず。
そんなことを思いながら広場へ。
小山の様に積まれたカゲロの実が、いくつも見える。
そのうちの一つを手に取り、沈み始めた日の光にかざす。
「さて、始めますか」
私はスクロールを展開した。
◆◇
錬成を始めて数時間。
さすがにそろそろ喉が乾いてきた。
あたりは完全に暗くなり、すっかり夜だ。ぼんやりと光るスクロールと、照明の魔導具の光に照らされ、錬成が完了した分の魔晶石の小山が光を反射している。
「かなり終わった、かな」私は軽く咳払いしながら呟く。
「ルスト師」とそこへ私を呼ぶ声。
ちらりと見るとアーリの姿があった。
「食べ物と飲み物持って来ました。休憩されてはいかがですか」とトレイに食べ物を載せ、両手で持ったアーリ。
提案のようで、その声は反論を許さない断固たるものだった。
「ああ、ありがとう。ちょうど喉が乾いていたんだ。目処もたったし、ありがたく頂くよ」
私はトレイを受けとると、そのまま、立って食べようとする。
「ルスト師」
「……はい」
さすがに立ち食いはあれかと、座るところを探してキョロキョロと辺りを見回す。
「良ければすぐそこに私たちの天幕があります。椅子を持ってきましょう」とアーリ。
「何から何まで、申し訳ない」と私は思わず謝ってしまう。
「いえ、大したことではありません」と応え、歩き出すアーリ。
私もその後を追う。
すぐさま見えてくるアーリ達の天幕。
アーリは中に入るとすぐさま出てくる。その手には二脚の椅子。
木で組まれ、座るところには布が張られた背もたれのない椅子。最小限の木材だけで組まれたそれは、木材の採れない辺境ではなかなか貴重な品のはずだ。
天幕の前に、椅子を並べる。
ありがたく座らせてもらうと、早速食事に手をつける。
まずはマグの飲み物をあおる。
エールだ。
長時間酷使した喉に冷えたエールが染み渡る。
野趣の強い香りが鼻へ抜ける。
思わずもれる声。
「今日は歓迎の宴ということで、リットナーのとっておき、だそうですよ。ここに来てすぐに試行錯誤し始めたもので、ついに出来た自信作、と言っていました」とアーリ。
「確かに美味い。エールでは感じたことのない香りだ。もしかして植物系のモンスターの食材が使われているのかな。それにしてもあの人、食料庫の管理だけじゃなく酒造りもしているんだ」
「確かに、リットナーは大麦のモンスターがたまにふらふらと迷い込んでくると、嬉々として狩りに行っていましたね」とアーリ。
私はそれに応えながら、食事も始める。
ツインラインホーンの肉のステーキだ。こちらは何度か食事に出てきていたので今では食べなれてはきた。しかし、いつ食べても美味しい。さっぱりとした赤身肉だが、筋もほとんどなく柔らかい。
エールとの相性もいいのだろう、あっという間に食べ終えてしまう。
私が食事を終えた頃合いで、隣に座ったアーリが口を開く。
「ルスト師、実は相談したいことがあったんです」とアーリ。
「何か私で力になれることがあれば。聞かせて下さい」
そうして、その口から語られたのは、アーリとロアについての悩みだった。




