side ロア 1
未来視の力を失ったと伝えてくるアーリ姉様はとても悲しそうな顔をしていました。
一見普通を装っているアーリ姉様。
いつも、そうです。
ロアを心配させまいと、アーリ姉様はいつもそうするのです。
これまではそうなったアーリ姉様をロアはどうすることも出来ませんでした。ずっとずっと、ただただアーリ姉様の本当は辛いお気持ちを心配して、それでも何も言えずに黙り込むしかなかったのです。
でも、今は違います。
ロアはアーリ姉様に再びひしっとしがみつきながら、顔だけはくるりと横に向けます。
そのさきに、助けを求めて。
こんなとき、いつも助けてくれるルスト師の方へと顔を向けます。
じっと、ルスト師の表情をうかがいます。
さっきまでなんだか微笑ましそうな、ぼやっとした笑顔を浮かべていたルスト師。
しかしアーリ姉様の発言を聞いた今はとっても真剣な表情です。
ロアの見つめる視線に気がついたのか、軽くロアに頷き返してくれます。
ただ、それだけでロアは少しだけ安心してしまいます。アーリ姉様やカリーン様から感じるのとはまた別種の、不思議な安心感をそこに感じるのです。
「アーリ。経緯を聞いてもいい?」
「──ルスト師。今は時間がないのではありませんか?」
ルスト師の質問に悩んだ様子でお答えするアーリ姉様。
ロアは邪魔にならないようにそっとアーリ姉様の暖かい腕の中から抜け出します。アーリ姉様はロアより体温が高くて、抱きつくとぽかぽかするのです。そのぬくもりから、意識して自分の身を引き剥がします。
──ロアは、ロアのなすべき努めをします。……アーリ姉様、ルスト師に話しかけられて少し悲しそうじゃなくなった──。
ロアはそこで意識を切り替え、ルスト師特製の槍を構えて周囲の警戒に入ります。
ただ、耳だけはしっかりと二人の会話を聞き逃さないようにそばだてます。
「カリーンがヒポポブラザーズを従えて地上から王城に向かっている。カリーンなら、何とかしてくれるさ」
「カリーン様が……。それはそれで少し心配です」
「それは、カリーンが王城を壊しすぎないかの、心配?」
「もう、ルスト師。カリーン様に言いつけますよ」
「それは勘弁っ。絶対悪のりして無茶ぶりしてくるやつだから、それ」
そこでふふふと、笑い合うアーリ姉様とルスト師。
ロアは思わず槍を握る手に力が入ります。錬成獣の槍が痛いよって身動ぎしています。ロアは、すぐに握力を弛めて、ごめんねと槍に伝えておきます。
「さて、簡単に情報交換といこう。わかる範囲でいいからアーリの方は未来視の力を失うまでに、何があったか教えてほしい」
「わかりました。ルスト師。それでは手早く」
そうして語られたアーリ姉様が穴に落ちてからのお話。ロアは落下直後のアーリ姉様の怪我の様子を改めて聞いてはその痛みに思いを馳せ、ルスト師のポーションを一口飲んで回復したところで安堵の溜め息をこっそりつきます。
そこら辺から、体に違和感のある身体能力の向上がみられたというアーリ姉様の話しに、ロアも一緒に首をかしげます。
そのあとの巨大ダンゴムシとの邂逅と、未来視の魔眼でみた通りの動作をしたら深紅の光が現れた下りではルスト師の指示で、光の発現を再現するアーリ姉様。
槍先に再び現れた赤々としたその温かい光。ロアから見て、それはアーリ姉様の暖かさそのものに感じられました。
もっとその美しい深紅の光を観賞し称賛すべきなのに、ルスト師はブツブツとなにやら呟いてました。ステータスウィンドウ、とかセイルークちゃんの名前が、ルスト師の口から漏れ聞こえた気がします。
そしていよいよ、アーリ姉様のお話は、王城地下でとても気持ち悪い村娘と出会い、未来視の力を失ったくだりへと到達しました。




