side アーリ 9
「不思議です。私はこんなにも動けるはずがないのですが……」
信じられないぐらい軽く感じられる槍を繰り出し、こちらへと迫る無数の脚を弾き返します。
今私の眼前には、こんな所に落とされる原因となった存在──巨大ダンゴムシがいます。
上体を少しそらすようにして体の中程から宙に浮いたその巨体。その巨体の下から生えた無数のわしゃわしゃとした脚が、地面との隙間に見えます。
「十四本どころじゃ無いですね。それに無駄に長くて、なんだか気持ち悪い……」
まるで折り畳まれて収納されていたのではと疑うくらいに長く伸びた巨大ダンゴムシの脚。
そのサイズ感から一見細く見えますが、その脚一本一本の太さは、私の槍よりも太く、そして非常に固いようです。
謎の強化を遂げた私の身体能力をもってしても、その脚の切断はかなわず、弾き飛ばすのが精一杯でした。
私の槍と、巨大ダンゴムシの脚が激突する度、硬質な金属音が洞窟に響き渡ります。
未来視の発動。
フェイントを交えて複数の巨大ダンゴムシの脚が私へと迫る未来視の映像。私は余裕をもって槍を地面に突き刺すようにして跳躍し、それをかわします。
──洞窟に、みっちりに敵が詰まっているせいで、回り込むことも難しいですね。
落下する勢いのままに敵を攻撃しても弾き返され、その隙に脚の一本が私の脇腹を抉る未来視の映像を見て、私は攻撃を諦めいったん距離を取ります。
「困りましたね。手詰まり、です。ルスト師のポーションをあてにして、ダメージ覚悟で通り抜けるのも……難しいみたいですね」
その時でした。再び発動する私の未来視。
しかしいつもと様子が違いました。
かっと燃え上がるような痛み。それが瞳に走ります。ルスト師に魔導具を作ってもらってから久しく感じたことのなかった痛み。
その未来の映像の中で、私は見たこともない真っ赤な光のようなものに包まれて戦っていました。
「つぁっ! はぁ、はぁ……。今のは何? こんなの初めて、です」
乱れた息を必死に整え、再び襲いくるダンゴムシの脚を私はさばいていきます。しかし頭のなかは先ほど見た未来の自分の姿でいっぱいでした。
──自分自身が知らない事を行っている未来なんて……。試してみるしか、ないの? 私の魔眼を信じてみるしか……。
殺到する脚を避けるようにして、私は再び槍を地面に突き刺すようにして大きく後方に向かって跳躍します。
「試して、みましょう。私の未来を」
私はそう呟くと、左手を前に掲げ、人差し指だけを伸ばした状態で手を動かし始めます。
未来視で見た自分自身の動きをそのままなぞるようにして。
──これって、例の見えないディスプレイを操作しているときのルスト師の動きと、似ている……?
次の瞬間、私の持つ槍の穂先に、深紅の光が走った。




