密談をしよう!!
「これは騎士タウラ様。驚きました。辺境へようこそ。お体はその後、いかがですか?」と私はタウラに声をかける。
「ルスト殿、かの節は大変世話になった。体調はすこぶる良い。貴殿のおかげでな。実は、貴殿に用があって参ったのだ。トマ村でたまたま、そちらのもの達がここへ向かうと聞いて同行させて貰った」とザーレ達を示しながらタウラは答える。
「騎士様には途中、何度もモンスターから助けて頂いて、感謝の言葉もねえ」とザーレ。
「それはありがとうございました。彼らが運んでくれていたのは、私宛の荷物なので」と私はお礼を伝える。
軽く頷き、ちらりと私以外の人たちへ視線を廻らすタウラ。
「お疲れでしょう。大したもてなしも出来ませんが、良ければ私の天幕に招待いたしますよ?」タウラの様子から余人にあまり聞かせたくない話かと思い、誘ってみる。
「それではご招待を受けさせて頂こう」と頷くタウラ。
私は野営地の中央の広場にカゲロの実を運ぶようにお願いすると、タウラを伴って、ヒポポとその場を離れる。
アーリの無言の視線を何故か背中に感じながら。
◆◇
「これはまた、凄まじいな」と私の天幕の中を見て驚いた様子のタウラ。
確かに見慣れない人からしたら蔦で覆われた部屋は奇異にうつるだろう。
「それで騎士タウラ様──」と私はそんなタウラの様子に苦笑しつつ、話し始めようとする。ローズが淹れてくれた、ローズティーのカップを傾けながら。
「タウラで良い。貴殿は命の恩人だ。それに我が剣を貴殿にお貸しする盟約も結ばせて頂いたのだ。既に帰依する神しか持たぬこの身にとって、敬称は過分」とタウラは祈りのしぐさをしながら遮ってくる。
「では、私のこともルストで構いませんよ。さあ、タウラも。良ければ温かいうちに」
私はタウラの提案にのると、ローズティーをすすめる。
「頂こう。ふむ、豊かな香りだ」
二人してしばし、無言で香りを楽しむ。何故かそれだけで少し打ち解けた気がする。話し始めたタウラの口調がかなり砕けたものになっていた。
「それで話というのは、呪術師のことなのだ」とタウラ。
「使い魔を差し向けてきた相手、ですね」と私は確認する。
「そう。あの後、奴の足取りを追って私は王都へと向かった。奴は、我が教団を壊滅させた仇でな。その際に私も呪いを受けてしまったのだが、ルストに呪いを解いて貰ったことで、呪術師に気づかれることなく奴を追い詰めることに成功したのだ」と本腰を入れて話すのだろう。カップをそっとテーブルに戻すタウラ。
「残念なことに最終的に奴を逃してしまった。だが、奴の隠れ家からこれが出てきたのだ。それも大量に」と、神官服の隠しポケットへ手を入れるタウラ。
差し出された手のひら。そこには、魔導回路の基板がのっていた。
「拝見しても?」
無言で頷くタウラ。
私は念のため純化処理した採取用の手袋をはめると、タウラの手から基板を受けとる。
全体を丹念にチェックした後に、《転写》のスクロールでさらに詳細を確認していく。
「ふむ、これは王都の錬金術協会には見せましたか?」と私はまず確認する。
「いや。ただ、怪しいとは思ったので、錬金術協会の様子は伺ってきた。かなり悲惨な有り様だったぞ。壁という壁には大小様々な穴が開いたのを急いで補修したのか雑に埋められていた。それに鼻を刺すような臭いが辺りに漂っていてな。職員らしき人たちは皆、死んだような顔つきをしていた」と臭いを思い出したのか顔をしかめるタウラ。
──なるほど。もしかしてスライムがどれか、暴走したのか? 誰も管理してくれなかったのか……
と思わず遠い目をしてしまう私。
「その基板の出所によっては、かなりまずいことになりそうだったからな。残りは王都の知り合いに預け、こういう物に詳しそうで信頼できる相手に相談しようと、ここへ来たのだ」とタウラは話し続けている。
「それは賢明でしたね」と気を取り直して私は答える。
「では、やはりっ!?」
「はい。これは魔素を炎に変換する魔導回路の基板です。しかも軍用の仕様ですね。作成したのは錬金術協会で、ほぼ間違いないでしょう。錬金術協会の錬成特有の癖がみられます」
「そうか……。奴の隠れ家には大量の魔法銃もあったのだ」
「かなり、きな臭いですね」と私。
魔素を打ち出す魔法銃は、人間以外の生命に攻撃効果が高いのだ。モンスターといえど魔素を大量に摂取すると死に至るので。
逆に人間には、効果がない。そのため、魔法銃は武の心得がない一般人でも気軽に使える武器とも言える。間違って人間に当たってもほとんど大丈夫なのだ。そういう意味では魔法銃自体は非常に安全な武器だ。
そして魔素を別の属性にわざわざ変化させると、変換ロスが発生する。つまり、モンスター用の武器であれば、わざわざ属性を変えずに魔素のまま攻撃した方が効率的なのだ。それでも魔素を炎に変える理由となると、ただ一つだけ。
「やはり、これは対人間用、ということだな」とタウラも私と同じ事を考えたのだろう。
「ええ、そうです。ただ、一つだけ疑問点があります」
「疑問点?」とタウラ。
「これ、多分、使うと爆発します。周りを巻き込んで、結構な被害が出そうですよ。しかも、そういう仕様ではなく、どうも欠陥品っぽいですね」
と告げると、私は魔導回路の基板をタウラの手の中に返した。




