二つの加護
ふわりと浮かび上がった厨房にあった無数の食器類──ナイフにフォークに包丁。はてはスプーンに陶器製のお皿、おたまや鍋の蓋まで浮いている。
──このために厨房に来たのか。調理器具を操る感じの加護なのかな
私は目の前の女性が甦った死者の一人だろうと目星をつける。何せ、体から浄光の青白い光がこぼれている。
次の瞬間。浮いた食器類も青白く光りながら、室内を旋回し始める。
ぐるぐると高速で私の周囲を回り始めた食器類。それらが時間差をつけて、こちらへと次々に発射されてくる。
「アロマカズラ! いつものと、あと後方のフォロー、お願い! 《展開》《研磨》 」
アロマカズラへの指示とともに、私は追加でスクロールを展開。前方に壁にするようにして金剛石の粉入りの竜巻を発生させる。私の背後ではその間にもアロマカズラの蔦が私へ向かって来た食器類を次々にからめとっていく。
「堅いっ!?」
食器類の速度が速すぎるせいか、はたまた浄光の光のせいか。私の研磨の竜巻でも完全に阻止しきれない。無数の傷がつきながらも、いくつか食器が竜巻を通り抜け私の眼前へと迫ってくる。
私は逆手に抜き放ったツインテールホーンのナイフで、目の前に迫る順にそれらを弾いていく。
──形状が、多様だ! それだけでここまで、対処しにくいとはっ!
半分に割れ、微妙に鋭利になった皿をいなすように弾いた次には、菜箸がまっすぐ私の目を狙ってくるのだ。
しかも、浄光をまとって。刺さればただの怪我では済まない予感がひしひしとする。
「まあ、当然そうなるよね……」
そして残念なことに、弾かれた食器類は再び室内を旋回する他の食器類に合流してしまう。
──どうする? やはりローズを顕現するか?
私は目の間で食器類を追加で浮かせて旋回させているシスター服の女性を見ながら、悩む。食器のたてるガチャガチャというか音に混じって聞こえてくる、チチチチっという音。どうも舌打ちの音で色々制御しているようだ。
ローズならこの状況を一気にひっくり返せるだろう。
──まあ、あと少しだ。時間が稼げれば何とかなりそうだから、まだアロマカズラだけで……
まだ、完全に余裕が無くなった訳ではない。それにもろもろ考慮しても目の前の甦った死者の一人と思われる敵は捕まえておきたいところだ。
「ルスト、大丈夫ですか」
そこへ、カヘロネーの声。そして室内に、うっすらとカヘロネーの魔素が漂っている。
よくよく見ると、厨房のそこかしこに可愛らしい意匠が施された調理家具がある。
──あっ、あの石窯の側面に彫られたのはウサギか。食器棚のとっては猫の手型になってる!どうやら、厨房はカヘロネーの領域になるように仕込まれていたみたいだ。
「《妨害》の加護を使います! ルスト、下がって!」
祈りの姿勢をとったカヘロネーからの指示。そして別々の神からの加護を持つ、二人の女性の戦いが始まろうとしていた。




