魔晶石の取引を始めよう!!
カリーンの天幕で、私は水瓶の増設が終わった事を報告した後、二枚の羊皮紙を渡される。
通信装置から出たものだろう。一枚はすでに開封されていて、一枚はくるくると巻かれ排出時の封がされたままだ。
「ルスト、相変わらず仕事が早いな。あの元からあった浄水機能付きの水瓶だって、並みの錬金術師なら数日はかかるというのに」とカリーンからの労いの言葉。
「まあ、魔導回路を手書きするとそれぐらいはかかるかも、ですね。後で見に行ってみて下さい」と答えながら、私は受け取った羊皮紙そのうち、広がっている方に目を通す。
そちらは隣の領地の領主から、カリーンに宛てた物だ。
普通は一言断ってから見るべきなのだろう。だが、わざわざ渡してきたのであれば構わないかと、そのまま内容を読んでいく。
「その件、確かに報告は受けていたが、これには驚いたぞ」とカリーン。
──ほう、トマ村の村長、ちゃんと話を通してくれたんだな。
「条件は良さそうですね」と感想をカリーンに伝える。
「良いなんてもんじゃないぞ。はっきり言って破格だ。一体どんなトリックを使ったんだ、ルスト!」と腰に手を当て詰め寄ってくるカリーン。
その赤髪を見下ろしながら私は降参、とばかりに両手をあげる。カリーンの怪力で、襟首を掴んで揺さぶられでもしたら、脳ミソが揺れて仕方なさそうなので。
私は急いで自分の言動を思い返す。
そして再び羊皮紙を流し読みして、ようやく合点する。風土病の治療後、一緒に食事をした時に報告したのだが、魔晶石について取引の要望が隣の領地からくるかもしれないとしか伝えていなかった気がする。
そして、羊皮紙にも魔晶石、としか記載されていない。
「あー、カリーン。トリックとかではなくて、今回の取引内容が旧型の魔晶石、なんだ」
「なにっ! H-32型魔法銃用の魔晶石かっ! おい、作れるのかルスト! ──いや、お前なら作れるか。はぁ、まったく」と私の顔を見て大きく溜め息をつくカリーン。
「それで納得だよ。もうどこでも手に入らないんだぞ、まったく」と繰り返すカリーン。
「もしかしてここでもH-32型魔法銃を保管していたりする?」
「いや、ここの戦闘要員は、ほとんどが私の元部下だからな。皆、武の心得はあるさ」と自慢げなカリーン。
「おお、それは流石だね」
「まあ、それはいい。これ、王都の方のやつらの利権に真っ向から喧嘩を売るの、お前ならわかっているよな」
「一応」と二枚目の羊皮紙を開封し、目を通しながら私は答える。
「おいおい、そこを何とかするのが私の仕事ってやつか?」と自嘲気味のカリーン。
「まあ、ちょうどその件で、ハロルドに問い合わせをしていたんだ。返事が来ているよ」と私は読み終わった羊皮紙を渡す。トマ村で私が出した返事だ。ハロルドは、私だけではなくカリーンとも学生時代からの友人だ。
「ハロルドか、確かに奴なら経理畑だしな。ふむ、なるほど」と羊皮紙にカリーンが目を通して呟く。
「王都は大変な事になっているようだな。アーリ達から報告は聞いていたがここまでとは。これなら今がチャンス、だな」と悪い笑顔を浮かべるカリーン。
「一気にやっちゃうべき、だね。こちらはいつでも大丈夫」と私も悪い笑顔で返しておく。このやり取り、なんとなく学生時代を思い出して懐かしい。
「よしよし。楽しみにしていてくれ。いくら何でもこれはってぐらいのを用意してやる」とカリーン。
「受けてたちましょう」と私はお辞儀してそれに答えた。




