素材と失ったもの
計八本になった竜巻が、巨大なカマキリへと襲いかかる。
一本目、うまく防がれる。
次の一本。そしてその次の一本もうまく避けられてしまう。
しかしここまでは想定通り。
次の一本が、その羽を掠める。
──よしっ、体勢を崩せたっ
そこからはあっという間だった。
バランスを崩したカマキリへと竜巻が絡み付くように襲いかかる。
金剛石の粉による研磨が、カマキリの節の部分を中心に抉り込むようにして、その体を削っていく。
すぐにその体はバラバラになってしまう。
「カヘロネー、終わりましたよ。さてさて、使えそうな素材はあるかな」
私はカヘロネーに一声かけると、素材採取用のいつもの《純化》済みの手袋を左手にはめる。
うきうきしながら、バラバラになったカマキリの部位に近づいていく。
「きゃっ! 緑色のどろどろがいっぱい……。あの、ルスト? それ、どうするんですか?」
私がカマキリの鎌の部分を左手でつまんで、触れないように気を付けながら右手で呪力を感じるか調べていると、カヘロネーの声がする。どうやら通路から出てきたらしい。
飛び散ったカマキリの体液を踏まないように、足を置く位置に細心の注意を払っているようだ。
「ああ、これ。素材として貰ってこうと思ってたんだけど。あ、もしかして協会の敷地内だから、カヘロネーの方で持ってく?」
私の問いかけに全力で首をふるカヘロネー。
私はそれでは、とばかりにそそくさとリュックにしまい込む。明らかにほっとした様子を見せるカヘロネー。
──良かった。敷地所有の観点から分配を求められなくて。明らかに、魔素と呪力の混合した浄光の反応があったからな、この鎌。
私はその他の目ぼしいカマキリの残骸もひょいひょいと、次々にリュックにしまっていく。
その様子を少し引いた感じで見ているカヘロネー。
──素材としてももちろん未知の可能性があるけど、どうもツヴァイと繋がりそうな危険な感じがする。やっぱりカリーンの勘は当たりか。
「あれ?」
「どうしました、ルスト」
カマキリの残骸が見えなくなって明らかにほっとした様子のカヘロネーが近づいてくる。
「いや、切り裂かれた私のスクロールが消えている……」
「あ、それでしたら見てました。バラバラになって地面に落ちたあとしばらくして、なんだか真っ青な炎を上げて燃えたと思ったら、あっという間に跡形もなく。てっきり、錬金術関連の機密情報保持のため、ルストの仕掛けたものかと思ったのですが」
「真っ青な炎か──。いや、別にそこまで大した物でもないからさ。そんな厳重なセキュリティは施してないんだよね。ふーむ」
私は《研磨》のスクロールに使用している魔導回路について思い返す。
──ほとんどの部分が一般的な物を使ってるしな。回路部分で、私のオリジナルは三つぐらい? まあ、全体的なバランスの取り方にはちょっと苦労したっけ。青い炎ってことはツヴァイに回収されたのかな。……目的が見えないけど。
考え込む私の方を心配そうに見上げてくるカヘロネー。
私はそれに気がつくと軽く笑いかけて、何でもないことを告げると、ガーンの遺体の安置していた場所へ改めて案内をお願いした。




