追加サービスをしよう!!
ロアが是非、追加の魔導具を設置するところを見たいと言うので、私とロアとヒポポの三者で白とかげを助けた池のほとりに来ていた。
「ヒポポ。念のため確認、お願い」
「ぶもっ!」と一鳴きして、ヒポポが池に飛び込む。
無言でそれを見守るロア。私はその間にここに設置する予定の魔導具の準備をする。とはいえ、すでに魔導具自体は作成済だ。今回は簡易錬成で作成するには難しい物だったので自分の天幕で予め作っておいたのだ。
その魔導具を取り出す。
ぱっと見は、人の身長ぐらいの長い筒だ。
魔物避けに、ここの池にいたナマズのモンスターの触手の毒の香り成分を塗布してある。そのため、取り出すと独特な匂いが辺りに漂う。ここらへんのモンスターにとっては、警戒心を起こさせるはずだ。
そうしているうちに、ヒポポが池からざばっと顔を出す。その口許には数匹の魚型のモンスター。
特に大物はいない。
どうやらここの主っぽかったナマズのモンスターが居なくなったことで徐々に他のモンスターが入り始めていたようだ。
「確認ありがとうね」と私はヒポポにお礼を伝えると、魔導具を設置し始める。
「それはなに? 特殊なモンスターの魔石が使われている?」と後ろから覗き込むロア。
「そうそう。遠出したのは、このモンスターを探しに行ってたんだよね。火山にまで行かなきゃならなくて。暑くて大変だったよ」
「何のモンスター?」
「パラライズクラウドっていう雲みたいなやつ」
「っ! それ、危険ランクが特級。物理攻撃が効かない難敵じゃ……」
「そうそう。それそれ」と私は話しながら魔導具を池のほとりから、乗り出すようにして池に突き刺す。
「水が枯れた時用に通知が来るようにしてっと。後は目標を設定して、切り替え用のフィードバックを受信に……」と、私は池に突き刺した魔導具の魔導回路に微調整を加えていく。
もちろん直描きはしない。足が濡れてしまうので。《投影》のスクロールを使って、池に入らず作業を終える。
「よし、完成っ! 起動するよ」とロアに伝える。
起動と同時に魔導具の真ん中からウォンと魔法陣が広がる。
そのまま筒状の魔導具を下るようにして魔法陣が池の水面まで降りてくる。
「あれはなんの魔導具?」とロア。
「オリジナルだから特に名前はないけど、強いて言えば雲式給水装置、かな」と装置の動きを見守りながら答える。
水面まで到達した魔法陣に触れた池の水が、雲へと変わる。
「白いのが、雲? 熱しているの?」とロア。
「いや、それだと大量に水を処理するときにコストがかかりすぎるから。それで、パラライズクラウドの魔石を使っているんだよ」
「どういうこと?」とロア。
やはり水の供給が増えるのがそんなに嬉しいのか、普段のロアからは考えられない食いつきっぶりだ。
「パラライズクラウドって雲のモンスターなんだけど、普段から核となる魔石の周囲の物理法則を魔法で書き換えててさ。水を雲の状態になるようにしているんだよね。そしてその雲が拡散しないように操っているんだ。あの装置も基本的には同じだね」
と説明していると、ちょうど魔法陣から立ち昇った雲が魔導具の上の端で一つにまとまり、一条の煙のように水平に移動し始める。野営地の方向に向かって。
「ああやって雲をまとめて、野営地の水瓶まで移動するようにしてある。水瓶の方にも目的地の魔法陣を描いてあって、そこまでたどり着くと物理法則の書き換えが解除されて水に戻るよ」
「こ、これが野営地まで!? そんな方法で水を運ぶなんて……。あり得ない」と驚いた様子のロア。
「そうかな? でも辺境だと、地中でも地上でも長距離でパイプを通したらモンスターに壊されるのは目に見えているし。パイプ全てに十分な魔物避けをするだけの素材がないから。ロア、ちょっとあの雲を乱してみてよ」と私は装置から流れ出た一条の雲を指差す。
無言で槍を雲に向かって振るロア。
槍の風圧で雲は一瞬乱れるも、すぐに野営地に向けて動き続ける。
「まあこんな感じで妨害に強いのが利点かな」
何故か言葉もない様子のロア。
私はその間に転写のスクロールで、雲式給水装置の状態をチェック。ちゃんと野営地側の水瓶からのフィードバックが来ていることを確認すると帰り支度を始める。
「ロア、そろそろ野営地に戻ろうか」と、声をかける。
その時だった。
「──アーリ姉様がくる」と、ロア。どうやら目の異能で見ている様子。
私たちがしばらく待っていると、急いでこちらへ向かってくるアーリが実際に見えてくる。
なにやらこちらへ向かって走りながら叫んでいる。
「ルスト師! カリーン様からです。至急お戻り下さい!」
どうやらカリーンからの呼び出しのようだった。




