再びカヘロネーの私室
王都アレイスラ教会で、無事にシスター・レーゼにお礼を伝え、経典を返した私は、アクター・カヘロネーの可愛らしい私室で向かい合って木の丸椅子に座っていた。
カヘロネーはなぜか落ち着かない様子だ。ベールの隙間からちらりと覗く耳も少し赤いように見える。シスター・レーゼと別れ際に何やら話していた様子だったが、何か言われたのだろうか。
「カヘロネー、どうかされましたか?」
「い、いえ。何でもありません。ああ、そうです。何か飲み物でも用意しなければ、ですね。きゃっ!」
そわそわとしていたカヘロネーが急に立ち上がったと思うと、丸椅子の脚に引っ掛けたのか倒れそうになる。
私はとっさにカヘロネーの二の腕を両手でおさえ、支える。
「……失礼。大丈夫でしたか?」
シスター服ごしに感じたカヘロネーは、とても華奢だった。
思わず、強くおさえすぎてしまったかもと、謝罪すると、カヘロネーが姿勢をたて直すのを確認して手を離す。
──右手が全然、反応しなかったな。呪術の要素となる負の感情がとても少ないのか。それともこれもアクターとしての『加護』の力か?
私が右手を握ったり開いたりを繰り返していると、なぜかその私の様子を見ていたカヘロネーが、耳だけでなく顔まで赤くなってくる。
「大丈夫、ですか? 顔が──」
私が思わず二度目の問いかけをしたところで、顔を俯けてしまうカヘロネー。
「……です。お茶を」
「えっ?」
何やら呟くようにして、さっと部屋から出ていくカヘロネー。
私はポカンとそれを見送ることしか出来なかった。
◆◇
だいぶ時間がたって戻ってきたカヘロネーは、顔色も戻って、態度もいつも通りだった。
私はなんとなく先程の事には触れない方がいいかと、ゆっくりいれてもらったお茶のカップを傾ける。
王都でよく飲まれている定番の茶葉のようだが、温度もちょうどいいし、ほとんど渋味が出ていない。
それは茶葉の質でのもてなしではなく、手間と気遣いの感じられるお茶だった。
「ふぅ。美味しいお茶をありがとうございます。さて、そろそろお伺いしてもよろしいですか。死者の復活とやらについて」
「ええ。もちろんです」
ことりとカップを机におくカヘロネー。部屋にうっすらと魔素が漂う。盗聴防止のカヘロネーの『加護』だろう。
「死から復活したのは、武具協会の副協会長ガーンです」
そしてとうとうカヘロネーの口から今回の依頼についての話が始まった。




