撤退!!
「ローズ、本当にありがとう。そしてすまなかった」
地上に降り立った私は、そっとローズの蔦から手を離す。その部分もかなりの負荷がかかっていたのだろう。手を離した瞬間にぼろっと崩れるように千切れてしまう。
──ヒポポの全速力の突進ですら受け止められるローズの蔦が、ここまでぼろぼろになってしまうか。生身で受けていたら確実に挽き肉みたいになってたな。
「《展開》《転写》……全体の七割はやられてしまったか。存在の維持にはかろうじて事足りるだろうけど、もう、これ以上は無理させられないな。ローズ、落ち着いたら本格的に再構築処理を施すからな。休ませてやりたいが、タウラの方だけ──」
残ったローズの蔦を調べながら語りかける。その時だった。蔦の一本が、くいっと私の後ろを指し示す。
「ルスト?!」「ルスト師! どうして?」
振りかえるとそこには、こちらへと走りよってくるロアと、タウラの姿があった。
どうやらちょうど洞窟の入り口近くだったようだ。ロアに予備で渡していた魔晶石の鍵で無事に出てこれたようだ。
駆け寄ってくる二人。
減速する気配が、ない。
「ロア! タウラも! 二人とも無事でよかった──」
どんっという衝撃を、二つとも受け止める。かなりよろけてしまったが、何とか無様に後ろへと倒れ込むことなく。
耐えきった自分を誉めたい。
このときばかりは呪術師の記憶から体のさばきかたを受け継いでおいてよかったと、内心、密かに思う。
「ロア、ありがとう。タウラは意識が戻ったようで、本当に良かった。体は大丈夫?」
私は真下に見える二人の頭に向かって問いかける。
「どうしてルスト師、先に外に?」「ええ。全く問題ありません。逆になんだか体調が良いぐらいで。それと、ロアから聞きました。私を助けるために、かなり無理をされたと。ありがとう、ルスト。でも、もっと自分を大切にしてください」
二人して一気に話し始める。
ちょうどそこへ、セイルークの鳴き声。上空から降りてくるのが見える。
「二人とも……」
私が言いかけただけで、ぴたりと口を閉じるロアとタウラ。
表情も、引き締まる。私の口調だけで、どうやら色々と察してくれたらしい。
ロアからの、短い現状確認の質問。
「まだ?」「ああ。何も出来なかった。弾き飛ばされて来たんだ。空間の穴もそのままになってしまっていると思う」「撤退を進言する」「──そうだね、態勢を立て直そう」
ばさりと着地するセイルーク。
「タウラ、これを」
私はセイルークに乗り込む前にと、タウラに剣を返そうと差し出す。
「──っ。私にはもう、それは相応しくない」
私の手の中の自分の剣を見つめ、唇を噛み締めるようにしているタウラ。
「と言っていられる状況じゃない今、渡すのね。ルスト」
それでも、どこか悲しそうな、覚悟を決めたような複雑な表情を浮かべ、私の手から剣を受けとるタウラ。
「我が手は、剣を離れた。厄災を切り裂くことも叶わなかった。願わくば次なる時は、我が身、我が命をもって一振りの剣と成すことを我が神に誓います」
剣を受けとるときに小声で呟いた、そのタウラの誓いは、ちょうどセイルークの羽ばたきで私の耳までは届かなかった。




