指パッチン!!
私は素早く、祭壇の状態を確認する。空間の穴を維持していた呪力はとうに消え、呪力のパスとして使っていた呪力導線も切断されている。
「どういうこと?」
「……ダメだ。やっぱり閉じない。接続も切れているんだが……」
ふと思考の片隅をよぎる予感。
「──っ!」
私は急いで瓶を取り出す。それはホムンクルスが入っていたはずの瓶。しかしいつの間にか、それはすっかり空っぽになっていた。
膨らむ不安。ありったけのスクロールを展開。右手の手袋も外すと肘まで覆うぐらいの呪力を放出。
空間にあいたままの穴の周囲を慎重に探っていく。
「──これは完全にやられたかもしれない。魔素も呪力も、私が準備したものは、あらゆる接続が切れている。しかし、だとすると、この現象を維持するためのエネルギーの供給源は一体何処から? これじゃあまるで──」
「ルスト師、わかるように言って」
「──ああ、すまない。しかしまだ、はっきりとしたことはわからないんだ。可能性としては二つ、かな。一つは自然現象に近い感じ。火とかのような。あれも、人為的に起こしても、燃えるものがあるかぎりは消えないでしょ?」
「消火方法にあたるものが必要?」
「そう。もう一つは、もっと深刻。向こうの世界の存在が、全く私にわからないやり方でこの現象の一切合切を乗っ取っている可能性」
「……二つ目、として動くべき」
深刻そうにそう告げて、槍を掲げるロア。
私はロアの槍の示す先、穴の向こう側を覗きこむ。
そこにはいつの間にか、青白い光で出来た存在が立っていた。
その、人の数倍の大きさのホムンクルスが軽く片手を振るしぐさをする。
「危ない!」
ロアが鋭く叫ぶと、穴のすぐそばにいた私へと抱きつくように突っ込んでくる。
体に感じる横方向の衝撃。
ロアの体当たりで、二人して地面に倒れこむようにして穴から離れる。
空間に空いた穴が、勢いよく広がる。
その私がいた場所を通過する穴。そのふちは、まるで空間を切り裂くようだ。
ふちの通過した部分の地面が抉れている。
「ロア、ありがとう。あっ、槍が──」
私は助けてくれたロアへとお礼を告げる。二人とも無事のようだ。
たた、一つ。
私の視線は、立ち上がるロアの手元へ。
ロアが愛用している槍がすっぱりと、柄の真ん中で切れていた。
穴のふちが拡大するところに、巻き込まれてしまったのだろう。
「──いい」
「いや、でも!」
「それより、あれ」
ロアの示す先。
もともと人が二人潜り抜けるのがやっとだった大きさの空間の穴が、今では部屋の半分程度まで大きく広がっていた。
その先の真っ白な部屋が、よく見える。
タウラが座らされていた巨大な椅子。そこに先ほどの巨大なホムンクルスが頬杖をついた姿でゆったりと腰掛けてこちらを見ている。
青白い光で出来たその顔には、表情がないのに、なぜか、とても愉しそうなのがわかる。
再び片手をこちらに向け持ちあげる、巨大なホムンクルス。
そしてその指を、ぱちんと鳴らした。




