side リハルザム 4
壊れた扉を乗り越え、スカベンジャースライムが部屋の中へなだれ込んでくる。
「な、早く扉を閉めろっ!」と叫ぶリハルザム。
「む、無理ですよ!」と見習いの一人が叫ぶ。
倒れた扉はスカベンジャースライムに覆われ、すでにボロボロになっていた。スカベンジャースライムは、無機物や生き物の死骸、排泄物を好んで食べる性質を持つ。
通常であれば、そこまで命の危険がある相手ではない。
実際、部屋になだれ込んできたスカベンジャースライム達は、床に放置された素材や備品に群がっている。
「く、何でもいい、さっさと攻撃するぞ!」と叫ぶサバサ。手にはちょうど持っていた魔導回路をチェックする用の器具。
装置を起動させ、炎の刃を発生させると、スカベンジャースライムに切りかかって行く。
サバサが炎の刃を振る。
横一閃。
群がっていた備品ごと、スカベンジャースライムがじゅっと音を立てて蒸発する。蒸気からは、ぷーんと腐乱臭が広がる。
「おい、そこの木箱は納品用の魔導回路が入っているんだ、やめろっ」と、リハルザムはサバサに触発されてスカベンジャースライムに攻撃を始めた見習い達を制止する。
木箱に向けて駆け寄るリハルザム。
その足元には、たまたま滑り込むようにして移動してきたスカベンジャースライムが一匹。
リハルザムがスカベンジャースライムの弾力と粘性を兼ね備えたプルプルボディを、踏む。
つるんと音が聞こえそうな勢いで、スカベンジャースライムを踏んだリハルザムの肥えた体が、前向きに投げ出されるように倒れる。
倒れ込んだ先には、群れていたスカベンジャースライムの集団がいた。リハルザムの巨体を優しく受け止めるスカベンジャースライムのプルプルボディ。しかしすぐにリハルザムの体はスカベンジャースライムの集団の中へと沈み込んでいく。
目から口から鼻から。腐乱臭に満ちたスカベンジャースライムがリハルザムへと侵入していく。じたばたと、もがき苦しむリハルザム。
別のスカベンジャースライムを攻撃していた見習い達が駆け寄ると、リハルザムの飛び出した足を持って、力一杯引っ張る。
すぽんとスカベンジャースライムの中から抜けたリハルザム。
着替えたばかりの服はスカベンジャースライムに溶かされ、ところどころ穴が空き、再びその身は腐乱臭を放っていた。
激しくむせているリハルザムをそっとしておこうと、見習い達は無言で視線を交わすと、出来るだけリハルザムから離れる様にしてスカベンジャースライムへの攻撃を続ける。
その頃になって、ようやく警備担当者が駆けつけてくる。
彼らと協力してスカベンジャースライムを討伐していく見習い達。
すべてのスカベンジャースライムを討伐し、大まかにでも片付けが終わった頃には、空が白んでいた。
一見無事に見えた魔導回路が詰められた木箱には、実は一匹だけ、スカベンジャースライムが侵入していた。
そのスカベンジャースライムは駆けつけた警備担当者によって無事に討伐されるも、魔導回路の数枚に取りつき、構成する部品の一部を溶かし食べていた。
そんな事になっていたとは、武具錬成課の面々は誰も気づいておらず。リハルザムにいたっては、粘液でどろどろの体を引きずってすでに帰ってしまっていた。
顔を見合わせる見習い達。
疲労で目の下に隈を作った彼らの顔を朝の爽やかな風が撫で、日の光が照らす。スカベンジャースライムによって壁も数ヶ所穴開きになっていた。
「スキーニ。大事な仕事だ。武具協会に魔導回路を朝一で納品してこい」
と疲労困憊の先輩達に仕事を押し付けられたのは、武具錬成課で一番の新人のスキーニだった。
スキーニは言われるがまま、朝一でそのまま武具協会へと魔導回路を納品してしまう。魔導回路の状態の再確認は、一切されることなく。




