アクター・レーゼの状態
「『展開』『転写』『示せ』」
アクター・レーゼの周りを、展開させた『転写』のスクロールがゆっくりとまわるようにして、その状態を読み取っていく。
その間も、少女は虚ろな瞳で宙をぼーと見つめたままだ。
私はスクロールの移動をとめると、読み取りの終わった情報を読みといていく。
「これは……」
「どうでしょうか、ルスト師」
私の呟きを聞いて、カヘロネーがかぶせるようにたずねてくる。よほど心配なのだろう。
私は素直に告げるか一瞬迷うが、ここまでの言動からみて、カヘロネーにはありのままを教える事にする。
「僅かに衰弱はしていますが、他はいたって健康です。なにも悪いところはありません。──物理的には」
「と言うことはそれ以外に原因があると?」
「ええ。精神が束縛されている可能性が高い、と思います」
私は先ほどからチリチリとした感触がする右手を思わず反対の手で握りしめながら答える。
アクター・レーゼのこの状態は呪術によるものとみて、間違いない。
なぜ、アレイスラ教がここまで呪術と関わってくるのか、私の受け継いだ呪術師の記憶に無いのが不思議だ。
その割には呪術師が大いにアレイスラ教を敵視していた感覚は残っている。
「アクター・レーゼは呪術によってその精神に影響を受けています。さて、アクター・カヘロネー。アクター・レーゼの経典は、どこにありますか」
私がそう尋ねただけで、勘の良いカヘロネーは察したのだろう。アクター・レーゼの所有する経典に、彼女の精神束縛の原因があると私が考えていると。
ゆっくりとベッドの脇の机を指差す。それはカヘロネーの部屋でも見たのと同じもの。たぶん一律に支給されている家具なのだろう。
「そこの右側の引き出し、一番上にあるかと」
そういって取り出そうとしてくれたカヘロネーを、制止する。
「おっと、それは危ない。申し訳無いですが、失礼します」
意識の無い人の机を勝手に漁る、きまりの悪さを圧し殺し、私は覚悟を決めると右手の手袋を外す。
「ロア」
「なに」
「しばらく、頼めるかな?」
「また、無茶するの? ──はぁ、仕方ない。でも帰ったらアーリねえ様に言うから」
「それは手厳しい」
感謝の気持ちをロアに向けた苦笑いに込め、ゆっくりと机の引き出しをひく。
引き出しに手をかけただけでわかる。呪術同士が干渉する感覚だ。
「ルスト師、その手は!」
私の手から溢れ、干渉の末に渦をまきだした黒い呪い。驚いたカヘロネーの声。
それらが、さぁーと遠のいていく。
二度目の感覚だ。私はあえて、その感覚に身を任せる。
かつてタウラの剣で貫かれた時と同じように、しかし今度はゆっくりと自分の意思で、私は意識の中へと落ちていった。
本日はコミカライズ版の更新日です。
第4話②、いよいよあの子が登場です!




