タイムリミット
かつんと、穴の中の壁に鍵の魔晶石が当たった感触が伝わってくる。中が見えないから、はっきりとはわからないが、魔法陣が発動しているはずだ。
「肩、つかまって!」
私はタウラに声をかける。
ふわりと優しげに、肩にわずかな重みが加わる。
タウラがしゃがみこみ、そっと私の肩に左手を添えたのだろう。
次の瞬間、穴から溢れだした魔素の光が私を通して私とタウラを包み込む。
世界が、切り替わる。
私はもう慣れたが、タウラは初めてのダンジョンだ。警戒しているのだろう。いつでも抜けるように、腰に納めた剣の柄を握る右手に、力が入っているのが見える。
私はゆっくりと起き上がると、服についた砂礫を払い落とす。
ダンジョンの中はやはり地揺れの被害は無いようだ。呪術師の記憶にある通りの姿。
しっとりと湿った黒っぽい石の壁、低めの天井には鍾乳石のような物が無数に見える。その自然の洞窟然とした壁と天井とは対照的に、床はまるでタイルが敷き詰められたかのように、平らだ。
点々と存在している水晶のような石が発する、ぼんやりとした光がそれを浮き上がらせていた。
「足元、所々ぬれているはずだから滑らないように気をつけて。この床は、濡れると急に滑りやすくなるから。あと、中途半端な明かりに、あまり頼らない方が良い」
「ああ。了解した。そういうトラップが多いのだな」
呪術師の記憶に基づいた私の警告に、すぐに理解を示すタウラ。中途半端に見えている分、錯覚させて陥れてくる罠がこのダンジョンには何個かあるのだ。
「ルストは道、わかるのか?」
「それが、最初のスタート地点がランダムで飛ばされるんだよね、ここ。だからしばらく動き回れば大体の場所の判断はつくと思う」
「それは難儀だな。仕方ない。どちらに行くかは任せるぞ」
スッと剣を抜き放ち、慎重に歩きだすタウラ。
私も《転写》のスクロールを一本だけ展開、後は左手にスクロールを構え、右手は空けたままにし、その後ろについてダンジョンを進み始めた。
◆◇
「どうだ、ルスト」
何度目かの現れたモンスターを叩き切り、尋ねてくるタウラ。
このダンジョンは実際の空間が基になっているからか、倒したモンスターが消えることもなく、素材が取れる。
さっと剥ぎ取れる分だけ回収しているが、それでもなかなかの収穫だ。
隅の暗がりから飛び出してくる、コウモリとヒルのあいの子のような飛行タイプのモンスターの羽。
天井から滴る水滴に擬態したウォータースライムの亜種の体液。
これらも錬金術でどう錬成に活用出来るか、今から楽しみだ。
警戒するポイントさえ理解していれば討伐も問題無く、済んでいる。ダンジョン前の事で、少し力み過ぎに見えたタウラもいい感じに力みがとれたようだ。
そのタウラからの問いかけに答えようと、私はちらりと《転写》のスクロールを確認する。このダンジョンに転移してから道をずっとオートで《転写》し、『記録』し続けているのだ。
そのため、大まかな移動した経路が、地図のようにスクロールに記されていた。
私はその地図と呪術師の記憶を照らし合わせる。
「うーん。まだだな。でもあと少しで、現在地がわかりそう」
その時だった。ダンジョンの中にも関わらず、床が、壁が、天井が軋む。
ぐらぐら、ぐらぐらと地揺れが私たちに襲いかかってきた。




