タウラとイブとリリーと
「ひどい男だな、ルストは」
私がおろおろとしている間に、自分で取り出したハンカチで涙をぬぐい、すっきりとした笑顔を浮かべたタウラは、立ち上がるとそう口にする。
「すまない」
「全く。女の子がこんなにも泣いているというのに。普通なら抱き締めて慰めるものじゃないのか?」
「え、いや。……そういうものなのか? それは……すまない」
「もうっ。これだからな。もういいです。でもこれで貸し借り、なしだからなっ」
こちらに近づくと、人差し指でとんと私を突きながら宣言するタウラ。
私は一瞬、貸し借りってなんのことかと首を傾げる。多分、私が死にかけた事と、今しがたの事で相殺だとタウラは言っているのだろう。
私の命とタウラの涙で、とんとんか……。
うん。まあ妥当かも、と思わず納得してしまう。
「はぁ。でも、この《呪剣ヒナゲシ》の事は、本当にありがとう。私……」
そうタウラが呟き、私の服の裾をなぜか軽く指先で引っ張っていたタイミングで、竹林に騒がしい声が響く。
「ルスト様! ルスト様はいらっしゃいますか!!」
リリー殿下の声だ。
タウラがぱっと手を離すと、思わず私と顔を見合わせる。
「ルスト様! ソトトへの入国の手はずがつきましたよ! どちらに──」
竹林の中から現れるリリー殿下。
「まあ、ルスト様。それに、タウラ殿?」
タウラの姿を見て、今さら威厳を正すリリー殿下。背筋を伸ばし、格好つけた様子でつかつかと歩いて近づいてくる。
その時だった。なぜかイブの地下茎がひょっこりと地表に飛び出してくる。
それも、本当にたまたま、リリー殿下の足元に。
「「あっ」」
私とタウラの声が被る。
「えっ。──とっと」
足を地下茎にとられて、よろけるリリー殿下。両手をぶんぶんと振り回し、体が前方に傾きながら、その表情は驚きで、口が大きく開いている。
しかし、さすがに剣姫と呼ばれるだけの事はあり、何とかぎりぎりのところで体勢を立て直す。
倒れ込む事は何とか回避して、落とした腰を上げながら、ちらりとこちらの様子を伺うリリー殿下。
よろけた事が恥ずかしいのか、その耳は真っ赤になっていた。
「そ、ソトトへの入国の手はずができましたわ。ルスト様。いつでも出発可能です。……もしかしてタウラ殿も同行されるのですか」
どうやら先程の事は無かったこととしてリリー殿下は話を続けたいようだ。
「ああ。私はルストの剣、だからな」
タウラも見なかった事にして上げるようだ。
呪剣ヒナゲシを掲げ、宣言するように告げるタウラの瞳はいつもの力強さを取り戻していた。




