呪剣ヒナゲシ
「剣を鞘から抜いて、その剣身を見てもらえるかな」
私がタウラに頼むと、無言で剣を鞘から引き抜くタウラ。
その剣身は赤黒く染まっていた。
「これは……」
さすがのタウラもその見た目に絶句している。
「すまない。変質した呪いをさらに書き換えようと試みた結果なんだ。しかし均一化には成功していて、これから最後の仕上げを行う。そのまま握って剣を寝かすように構えてくれないか」
私は今回のために用意した特製のブラッディポーションを取り出し、握りしめていた右手を開く。あふれでた呪いの黒いもやを指先に集中させる。
「ルストっ!! それはっ!!」
私の指先を見て、悲鳴のような声を上げるタウラ。それでも構えた剣が全くぶれないのはさすがだ。
「呪術が、使えるようになっちゃってね。今から、その剣の所有者登録を行う。私が《名付けて》、と言ったらその剣に名前を考えてつけて欲しいんだ。そうすることで、タウラを所有者として登録するから。さあ、いい? いくよ」
「いや、ちょっ。まって、まってくれ! 使えるようになっちゃってって、いったいどういう事だ! それに、名前を考える時間が!」
焦った様子のタウラとあえて目を合わせないようにして、私は右手の指先をブラッディポーションに浸すと、剣身に指先を当てる。ここは勢いで押しきってしまおうと。
私はそのまま剣身に指を滑らせ、魔導回路を直書きしていく。魔導回路の直書きは久しぶりだ。いつもは《転写》のスクロールで時短しているのだが、今回はそうもいかない。
呪術の黒いもやとブラッディポーションが私の指先で混ざり合い、剣身に塗布されると青白い光を放ち始める。
私はそのまま一気に魔導回路を書き上げる。
「タウラ! 《名付けて》」
「っ! ──呪剣ヒナゲシ」
タウラの言葉に反応して、剣身が青白い輝きを発する。
その光は剣を握ったタウラの手を包み込み、そのまま遡るようにしてタウラの全身が青白い光に包まれる。
──どうやら無事に登録が完了したみたいだ。呪術と錬金術を使った、この世に初めて産み出された剣。ヒナゲシ、か。たしかタウラの大事な人が好きだった花──
「なに、これ? セーラ様を感じる……」
ポツリとタウラの口から言葉が漏れる。タウラの全身をおおっていた青白い光が、剣へと収束していく。その赤黒かった剣が、青白い色に染まる。
いっそ神聖ささえ感じさせる、その輝き。
ただその剣身に私が書き込んだ魔導回路だけが、赤黒いままだ。
「セーラ様ってその剣をタウラに贈った方?」
私は全体の出来を確認しながらたずねる。
「そう」
「──呪いは人の思念を取り扱うものだから、剣に残留していた人の思念で、最も強い物が多分表に現れたのか?」
私は想定外の剣の変化に、興味がかきたてられるも、さすがに何とか抑える。
「じゃあ、これは本当にセーラ様、なのだな。ああ。ああ……。仇は、取りました。取りましたよ、セーラ様。貴方の死を辱しめたあの憎き男は、私のこの手で──」
そっと剣身に指先で触れ、必死な様子で語りかけるタウラ。不思議なことに、そのタウラの言葉にまるで応えるかのように、剣身をおおう光の強さが強弱を繰り返している。
その光は、端からみていてさえも、苦しむ子を慰める慈母のように感じられた。
語り尽くしたのか。ついに言葉を止め、その場に崩れ落ちるように座り込む、タウラ。その頬は、止めどなく溢れる涙で濡れていた。




